84 私と大輪の薔薇の花束

 フェールズ王国に帰ってから数日、心配をかけたみなさんへの挨拶が終わって一息ついていた時だった。

 私が家で、今日の夜ご飯の支度をしていた時に玄関のチャイムが鳴ったのだ。

 ヴェインさんとアーくんが帰ってくるには早い時間だったし、かっちゃんと野上くんがご飯を食べに何時も家に来る時間でもなかったため、私は首を傾げていた。

 

 疑問に思いつつも玄関を開けると、外には身なりのいい男の人が立っていた。

 外にいた男の人は、私が玄関の扉を開けると、大輪の薔薇を差し出して言ったのだ。

 

「突然の訪問となり、申し訳ございません。我が主から、貴方様へのプレゼントでございます」


「えっ?えっーーー!!」


 見たことのないくらいの大輪の薔薇の花束を渡された私は、花束に埋もれながらも戸惑いの声を上げていた。

 私の驚く声を聞いたその人は、すまなさそうにしながらも続けてこう言ったのだ。

 

「シズヤお嬢様、こちらの手紙のお返事については、より良いものをいただけますようお願いいたします」


 そう言って、薔薇に埋もれるようにしてひっそりと佇んでいた、真っ白な封筒を見てそう言ったのだ。

 その人は、言うことは言ったという表情をした後に、あっという間に姿を消していた。

 私は、どうしていいのか分からずにその場に立ち尽くしていたけど、ヴェインさん達が帰ってきたことで、我に返ったのだった。

 

 帰ってきたときのヴェインさん達は、大輪の薔薇に驚きの声を上げていた。

 場所を玄関からリビングに移した後に、ヴェインさんとアーくんが言った。

 

「シズ、ただいま……。ところでこの異常な数の薔薇は……」


「シズ?どうしたんですか?この尋常じゃない数の薔薇は?花屋でも開くつもりですか?」


「えっと……、知らない男の人に貰ったと言うか……」


「はっ?」


「えっ?」


「私もよくわからないんです……。取り敢えず、お手紙が添えられているようなので、それをよ―――」


 私が、手紙を読んでどうするか考えますと言おうとしたけど、真剣な表情のヴェインさんに言葉を遮られてしまっていた。

 

「シズ?その手紙は危険物の可能性がある。この異常な数の薔薇とその手紙には、犯罪臭がする。だから、俺が手紙を検めるから、な?」


 そう言って、手紙を開封しようとしている私に手を差し出したのだった。

 だけど、宛名には私の名前があった訳で……。

 それを、家族のような人とは言え、ヴェインさんに見せてもいいものなのかと、私が悩んでいると、ヴェインさんが、そんな私の気持ちに気が付いてくれたようで、眉を寄せて謝ってきたのだ。

 

「シズ、ごめんな……。シズの事が心配で……。でもな、もし手紙にひわ―――」


「兄様!!!ゴホン!!あー、その……、そう。あれです。兄様はとてもシズを心配しているのですよ……。色々な事がありましたからね……」


 ヴェインさんの話を遮った形になったアーくんは、何かを考えるようにしながらそう言った。

 確かに、ここ最近、色々あって、二人に心配をかけてしまった自覚はあるよ。

 でも……。

 

 そんな事を考えていると、家の外が騒がしいことに気が付いた。

 ヴェインさんは、様子を見てくると言ってリビンクから出ていってしまった。

 

 ヴェインさんがリビンクを出てすぐに、かっちゃんと野上君の声が聞こえてきた。

 

「この変質者が!!死ね!死に晒せ!!」


「ちょっ、カツたんまたんま!!この人、身なりからしてお貴族様っぽいんけど……」


「あ゛?だが、こいつは、影から静弥の家を覗き込んでいたんだぞ!!きっとストーカーに違いない!!」


「ち、違います!!誤解ですから!!私は、ただの使いです!!」


「カツヒト?ソウ?何事だ?」


「ヴェイン!!こいつが、この家を外から覗いてたんだよ!!」


「はっ?えっ!!カツヒト、ちょっと待て!!その人は」


「ヴェイン様!!ご、誤解です!!我が主からお使いを頼まれて!!」


「は?セレフィン?どういうことだ?!」


「シズヤお嬢様に縁談のおは―――」


「縁談だって?!」


「は?はーーーーー!!静弥に縁談?!」


 何やら、玄関先で揉めているようだったので、私とアーくんはお互いの顔を見合わせてから、一緒に様子を見に行くことにしたのだ。

 

 すると、玄関先には、さっき花束を置いていった男の人が、かっちゃんに地面に押さえつけられるような格好でいたのが目に入った私は驚きの声を上げることになったのだった。

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