おでかけ編

43 私とご近所さん

 翌日から、新居の家具を作ったり、庭を整えたりと忙しい日々を送っていた。

 もちろん、工房も建てたよ。

 整えた庭に、椅子とテーブルをセッティングして、お茶とお菓子をつまみつつ堪能しました。

 勝手に工房が建っていく姿はとっても面白くて、今回も見入ってしまったよ。

 

 そうそう、工房を建てたら、残念なことに畑や菜園を設置するスペースが小さくなってしまったのよね。

 悩んだ結果、ビニールハウスを建ててその中を改造することにしたの。

 家主のスキルに、拡張機能があったんだけど、今まで使い所がなくて、使ったことがなかったんだけど、ついに役立つ時が来たわ。

 

 この拡張機能のスキルは、設定した範囲をその名の通り拡張できるという代物だ。

 ゲーム内では、特に必要性を感じなくて一度も使ったことがなかったのよね。

 

 でも、これがあればビニールハウス内を広くすることが出来るから、畑や菜園を十分な広さで設置できると思うと、あってよかったと思えたよ。

 

 見た目は、小さなビニールハウスだけど、中に入ると広々とした畑と菜園が広がるというステキ仕様だ。

 

 お店以外は、家も家具も、工房も畑も菜園も庭も整え終わった私は、ご近所さんにとうとう挨拶をすべく、準備をした。

 

 ご近所さんに渡すお菓子を準備した私は、家を出たところで完全に忘れていた柵に掛けたままだった青い布の存在を思い出した。

 工事をする際に目隠しとして付けたままだったのだ。

 私は、いそいそと布をアイテムリストに戻してから、改めて出来たばかりの家を眺めた。

 

 お店はまだ空っぽだけど、2階建てで三角屋根の可愛いお家だ。

 庭も、花々が咲き乱れてとっても可愛く整っている。

 

 一通り眺めた後に、ご近所さんに挨拶をするべく家を出た。

 

 私の買った土地は、丁度角に当たる場所だった。隣は、空き家のようだったので、通りを挟んだ向こう側のご近所さんに挨拶をするために家を出た。

 

 最初に向かったのは、果物や野菜を置いているお店だった。

 

「あの……」


 店先にいる、優しそうなおばさんにどう声を掛けていいものかと悩んだ結果、か細い声で、もじもじと声を掛けていた。

 私に気がついておばさんは、ぱっと太陽みたいな明るい笑顔を私に向けてくれた。

 

「いらっしゃい。どうぞゆっくり見ていってね」


「はい……、あっ、あの!!」


 新しい人生を楽しく生きると決めたんんだと、勇気を出しておばさんに声を掛けた。

 

「あの、私……。通りの向こうに新しく住むことになった、静弥っていいます!今日は、ご挨拶に来ました。これ!つまらない物ですが、食べてください!!」


 勢いに任せて一気に言って、お菓子を差し出しつつ頭を下げた。

 

 おばさんは、小さな笑い声を立ててから、私のお菓子を受け取ってくれた。

 

「ふふ。ご丁寧にどうもね。あたしは、この青果店を経営しているナタリーだよ。この店は旦那のダンと一緒にやってるんだ。ちょっと!!あんた!!」


 そう言って、ナタリーさんが奥に声をかけると、体の大きなおじさんがのっそりと店先に現れた。

 おじさんは、無口な人らしくペコリと頭を下げてまた奥に引っ込んでしまった。

 

「ごめんね。シズヤちゃん。あの人、無愛想でねぇ。これありがとう、後で旦那といただくよ」


「いえいえ。これからよろしくおねがいします」


 ナタリーさんは優しく私のことを受け入れてくれた上に、お店の果物もくれたのだ。

 私が慌ててお金を払おうとしたら、「いいよ、これはあたしからの引越し祝いってことで」って、可愛らしく片目を瞑って言ってくれたの。

 私は、その心遣いが嬉しくて、ナタリーさんに心からの笑顔を向けていた。

 

 次に向かったのは、ナタリーさんのお隣さんのお肉屋さんだった。

 お肉屋さんは、四人家族でとても賑やかなお家だった。

 お菓子を渡すと、とても喜んでくれた。

 

 最後に向かったのは、本屋さんだった。おじいさんが一人で趣味で経営しているそうで、お菓子を渡すと、嬉しそうな可愛らしい笑顔を私に向けてくれた。

 そして、「いつでも遊びにいらっしゃい」って言ってくれた。

 

 他のお店は、閉まっていたり、留守だったりで後日挨拶に行ったけど、他のお店の人達も優しい人ばかりで安心した。

 

 ご近所さんに挨拶を終えた日の夜、いつものようにヴェインさんとアーくんが晩ごはんを食べに来てくれた時に、ご近所さんと上手くやっていけそうだと言うと、二人はとても素敵な笑顔を言ってくたのだ。

 

「そっか、シズがそう思えるっとことは、良い人ばかりなんだろうな。よかったよ。俺も、手が空いた時は、様子を見に来るからな」


「良かったですね。ご近所付き合いは大事ですからね」


 うん。私もそう思うよ。ご挨拶した人達はとてもいい人そうで、これから上手くお付き合いして行けると思えたんだ。

 

 翌日は、家のことも、ご近所さんへの挨拶も終えたということと、ヴェインさんのお休みが重なったということで、街を案内してもらえることになったんだ。


 明日は、ヴェインさんが家に迎えに来てくれることになったので、一緒に朝食を食べようと誘ったら、嬉しそうに言ってくれた。

 

「嬉しいな。久しぶりのシズの朝食が食べられるのは。これは役得だったな」


 私の朝食をそこまで期待されると、腕を振るわないといけないわ。

 イケメンスマイルを浮かべるヴェインさんにリクエストを聞くことにした。

 

「朝ごはんのリクエストがあったら言ってくださいね」


「それなら、あのふわふわのパンが食べたいな」


「ロールパンですね。ふふふ。二人は本当にロールパン好きですよね」


「ああ、あれほど柔らかく、ほんのり甘みのあるパンは食べたことがなかったからな。初めて食べた時は、驚いたよ」


 そう言って恥ずかしそうに、頬を赤く染めるヴェインさんを見て私は、リス食いをする二人の姿を思い出してついつい笑顔になっていた。 

 

「可愛い……」


「ん、ヴェインさん、何かいいましたか?」


 ヴェインさんが、なにか言ったような気がした私がそう言うと、慌てたように言ったの。

 

「いや、何でもないよ。明日が楽しみだな」


 朝食を楽しみにしているヴェインさんの姿を見た私は、二人が帰った後にロールパンの準備を鼻歌を歌いながら仕込んだのだった。

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