44 私とナチュラルイケメン
次の日、ちょうどパンが焼き上がったタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
手を拭きつつ、玄関を開けると私服姿のヴェインさんが立っていた。
今まで、騎士団の制服や、私の作った服を着た姿は見ていたけど、私服姿を初めて見た私は、つい見入ってしまった。
ちょっと長めの前髪は横に流す感じで軽くセットされていて、イケメン度が上がっているように見えた。
シンプルな白いシャツに、紺色のズボン姿だったけど、仕立ての良さが分かる服装と相まって、いつも以上にキラキラして見えた。
それに、香水でも付けているのだろうか?ヴェインさんからは微かに柑橘系のいい匂いがした。
それに比べて私は、至ってシンプルなシャツに動きやすさ重視のハーフパンツ姿。今は、料理中のため、その上に白いエプロンを付けているという、女子力低いにもほどがある姿だった。
自分のお粗末な格好に、恥ずかしくなっているとヴェインさんがにこやかに言った。
「おはよう。いい天気になってよかったよ」
「はい。おはようございます。今日はよろしくおねがいします」
ダイニングにヴェインさんを連れて行き、出来上がった朝食をダイニングテーブルに並べた。
ヴェインさんは、食卓に並べられたロールパンと卵焼きとカリカリベーコン、サラダとスープを見て瞳を輝かせていた。
今日も美味しそうにご飯を食べてくれるヴェインさんと話しつつ今日の予定を聞いた。
「今日は、この周辺の他に、中央にある広場にも行こうと思っている。その広場は、いろいろな出店が出ていて人気のある場所なんだ。シズもきっと気にいると思うぞ。その他には、中央図書館にも行こうと思う」
「わぁ。楽しみです」
「ああ、任せろ」
ご飯を食べてから、お茶を飲んで一休みした後に出かけることにしたけど、出かける前に自分のお粗末な格好を思い出して、着替えることにした私は、一度部屋に戻っていた。
クローゼットの中を覗いて見ても、今着ているものと大差ない服しか入っていないことに、自分の女子としての自覚の無さに頭が痛くなってきた。
ちょっとはおしゃれな服も持っていないと、一緒に過ごすヴェインさんに恥をかかせてしまうと思った私は、これからはおしゃれにも気を使うように自分に言い聞かせた。
どうしようかと悩んだ結果、アイテムリストに放り込んだままの服の存在を思い出したのだ。
裁縫師のレベル上げの時に作った服の数々をだ。
ゲームのアバターように作ったため、とても可愛い服が沢山あったけど、自分で着るには似合わないと判断して放置していたのだ。
でも、少しでも可愛い服を着て、ヴェインさんに恥をかかせないようにしないといけないと考えた私は、一通りの服をベッドに並べて少しでもマシになる様なものを選んでそれに袖を通した。
私が選んだのは、シンプルな青と白のストライプ柄のワンピースで、白いエプロンがセットになっているものだった。
ゲーム内で作った服のため、アリスチックで可愛いけど、自分で着るにはちょっと恥ずかしい。
他の服と比べると比較的シンプルなワンピースだったけど、裾にレースがあしらわれていて私が着るには可愛らしすぎる気がして、気が引けたよ。
それに、裾が結構短かったりする。さすがゲーム内の洋服と言ったところだわ。
付属のニーソックスをはいてから、髪もセットする。
いつもは適当にひとつ結びにしている髪を、今日は2つに分けて緩い三編みしてみた。
仕上げに、リップを塗ってから鑑で自分の姿を見る。
うん。服が完全に浮いてるね!!
帰ったら、もっとマシな服を作ろう……。
部屋から出て、リビングで待っていてもらったヴェインさんに時間がかかってしまったことを謝ると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。
ですよね……。
似合ってないのに、気合い入れ過ぎ勘違い女だと思われても仕方ないよね……。
「似合ってないですよね……。やっぱり、いつもの服に―――」
「ちっ、違う!!凄く可愛くて驚いただけだ!!俺は、凄くいいと思うぞ!!うん、可愛いよ」
そう言ったヴェインさんは、目を細めて笑ってくれた。
イケメンは慰めるときも格好いいんだね。
でも、そんなに可愛いって言われると勘違いしそうになるから止めて欲しい。
お世辞を本気に受け取ってしまうそうだよ。
「あはは。ヴェインさんはお上手ですね……。分かりました、ヴェインさんがいいなら、このまま出掛けましょう」
「いや、お世辞とかじゃなくてだな。俺は本気でシズを可愛いと思ってるんだぞ」
「ヴェインさんは、優しいからそう言ってくれるんです。両親以外にそんな事言われたことないですから、自分でもちゃんと分かってます」
そう言って、私はそそくさと玄関に向かった。
「いや、そうじゃなくて……。はぁ。無自覚過ぎて、これからが心配だ。それに、こんなに可愛い格好を見たら、グラッと来るに決まってる」
家を出た私に、ヴェインさんは左手を差し出した。
その手を見て首を傾げていると、ヴェインさんは私の右手を取って言った。
「ほら、これで安心だ。よし、行こうか」
ヴェインさんのイケメンスマイルが眩しすぎて、手を繋ぐことについて何も言えないまま、お出かけがスタートしたのだった。
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