18

 夕方ごろ、奏とカイルはギルドを訪れていた。カウンターには丁度人が途切れたのか、紅茶を飲んで一息入れているミレーナがいた。奏たちはミレーナのいるカウンターに向かった。

「ミレーナ、お疲れさま。」

「ありがとニャ、カナデ。珍しいニャね、カナデがこの時間にギルドにいるの。依頼受けに来たのかニャ?」


 ミレーナはそう尋ねながらティーカップに口を付けた。

「今日は依頼を受けに来たんじゃないよ。私たちそろそろ活動場所を移動しようと思うんだけど、おすすめの場所ってない? 私たちあんまり詳しく知らないから、教えてほしくって。」


「っ、ゲホッゴホゴホゴホ、ケホッ。」

 ミレーナがむせてせき込んだ。

「!!! ミレーナ大丈夫?」

 カナデが慌ててミレーナの背中を撫でると、ミレーナはせき込みながら奏の襟元をつかみ、

「ぜぇぜぇ、カナデ、ケホッ。活動場所を変えるって、ハァハァ、どういう事ニャ!!!」

と、奏を揺さぶりながら叫んだ。

 

「ミ、ミレーナ落ち着いて! これじゃ話せない~~~~~!!」

「あ、ごめんニャ。」

 奏は頭がグワングワン揺れる感覚に耐え切れなくなり、ミレーナの手をつかんで自分から放した。

息を整えながら、カイルはこういう感じだったのか・・・・。後で全力で謝っとこ。と心に誓った。


「で? どういう事ニャの、カナデ。もうこのギルドが嫌になっちゃたニャ?」

 目に涙をためながらミレーナが聞いた。奏は泣き出しそうなミレーナに慌てた。


 う・・・・。どうしよう。ミレーナが捨てられた子犬に見える。いやっ、ミレーナは猫だけど!! なんだろうこの罪悪感・・・・。そして周りからの視線が超痛い!!!


「ほ、ほら、私たちここにきて1年たったでしょ? 大体この町も見て回ったし、違うところに行ってみたいなぁって思ったんだ。私は田舎から出てきてすぐここに来たから、ここ以外あまり知らないんだ。・・・・もちろんここが基本拠点だから、定期的には帰ってくるよ!」


 カナデの説明を聞きながらミレーナは、もうカナデはここに戻ってこないの? あ、ダメニャ。また涙が・・・・。

 ミレーナは奏に会えなくなることを想像してしまい、また目に涙をためた。


 ミレーナの目に再び涙が浮かんだのを見て奏は慌てて、拠点はあくまでここだから定期的に帰ってくることを告げた。

「ホント? 本当に帰ってくるニャ?」

「本当だよ。ここは渡地たちの第1歩の場所だから、私たちはここに絶対帰ってくるよ。」


 この言葉には嘘はない。私は(おそらく)1度死んで何故か魔の森にいた。そこで、カイルに出会った。ミレーナに出会った。カイザルさんに出会った。そして、私は新しい人生の1歩を冒険者として踏み出した場所。ここは私の最初の場所。だからここには、何があっても絶対帰ってくる。


 ミレーナは私の言葉に安心したようだった。

「あ、忘れてたニャ。カナデ、『ギルドに来て時間があるんだったら俺の部屋に来い』 ってギルド長から伝言預かってるニャ。カナデが聞きたがってたことはギルド長室から戻ったら教えるにゃ。」

 ミレーナが、今思い出したと言った。どうやらミレーナの中では、私がギルド長室に行くことは決定事項のようだ。


 正直行きたくないのが本音だ。カイザルさんは何を企んでいるのか、最近わからない。だけどどうせこの町を出ることは報告しようと思っていた。だったら一発で終わらせよう。


 私は1つ頷いて、カイルとともにギルド長室に向かった。

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