閑話3(カイル視点)
我は誇り高きフェンリルである。程よくついたしなやかな筋肉に銀色のサラサラの毛並み。我の自慢だ。
以前は魔の森ではないところに群れで暮らしていたのだ。
我はフェンリルの中で特別な存在なのだ。我の毛並みは少し他のものと変わっていって、朝日を浴びると黄金に輝くのだ。体毛が黄金に輝くのは、聖獣の証なのだと、同胞たちが我を遠巻きにしながら言っていた。
我はいつも孤独であった。我が聖獣であるせいか、同胞たちは近寄ってはこないのだ。いつも遠巻きに我を眺めているだけなのだ。我はそんな生活に辟易して単身で群れを飛び出し、魔の森に移り住んだ。
決してボッチが寂しかったわけではないぞ・・・・・・。
魔の森にすみ着いて数年が過ぎた。そのころ我は魔の森の頂点に君臨していた。ここには冒険者とかいううるさい者共があまり来ないすみやすい森だ。そんなある時、通常ではありえないほどの魔力の歪みを感じた。強力な魔物が突然現れたのかと、警戒を強めて様子を見に行った。
だがそこにいたのは、見たこともない目と髪の色をした人間であった。
なぜこんなところに人が?と思ったが人間と目が合ったとたん全身の毛が逆立つのを感じた。
なんだこの尋常ではない魔力は!!!
『人の身ではありえない魔力量だな。お主何者だ?』
人間は最初我を警戒している様子であったが、ぽつりぽつりと己について話し始めた。
なるほど‥‥。ここに来た経緯や髪や瞳の色、そして膨大な魔力量。こやつが女神の愛し子だというのなら説明がつく。
『ここから1番近い町を教えてやってもいいぞ。ただし条件がある。我と契約をすることだ。』
最初はただ単に暇つぶしのつもりだった。これほどの魔力を持った人間はどんな奴なのか、という。このものであれば我を恐れず対等に話してくれるのではないかという願望もなかったわけではない。
我は愛し子カナデと契約し、カイルという名をもらった。契約した時、カナデの魔力が流れてきた。とても澄んでいて優しい魔力であった。
契約した日は我の寝床の洞窟で共に寝た。朝、我は日の出とともに寝床を出た。我は怖かったのだ。朝日を浴びて色を変える体毛をカナデに見られることが…。だから日が昇りきるまで散歩でもしようと外へ出たのだが、カナデが起きて外に出てきてしまったのだ!
カナデが朝日を浴びて輝いている我を見て固まった。我はもうだめだと思った。聞こえてくるのは悲鳴か罵声か、覚悟した時、
「カイルが黄金に光ってる!! キレーーイ。なんで?」
カナデが興奮しながら抱きついて我を撫で繰り回しながら言った。
『我が恐ろしくはないのか‥‥?』
気づけばそう問うていた。カナデはきょとんとした。
「なんで? びっくりはしたけど怖くはないよ。こんなに奇麗なのに怖がるわけないじゃん!!」
カナデは笑顔でそう言った。その言葉に不覚にも泣きそうになったのは秘密だ。
我は誰かにこんな風に言ってほしかったのかもしれない。
今日はカナデとともに町へ行く。
ともに楽しもうではないか。我が主殿。
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