2度目の異世界編

 ピチピチ。

 サラサラ。


 誰も足を踏み入れない森の奥深く、一か所だけ日が差し込んでいる場所があった。その中央には、黒髪の少女が眠っていた。その光景は、宗教画のように美しかった。


―――☆―――

 


 鳥の鳴き声が聞こえる……。川の流れる音が聞こえる……。風が気持ちい……。


 奏はぼんやり目を開け、体を起こしてあたりを見渡した。どうやら森のような木が密集している場所にいるようだ。

 

 ここは死後の世界なのかな…‥‥。そうに違いないよね。だって私は王女に刺されてあの時死んだはずだから。


 そんなことをぼんやり考えていると、目の前の木々の間から白い大きな獣が現れた。

 奏はその獣を見て、慌てて戦闘態勢に入った。その獣は、魔獣の上位種であるフェンリルだったのである。

 フェンリルは、私の間合いの一歩手前で立ち止まった。


『人の身ではありえない魔力量だな。お主何者だ?』

 急に頭の中で声がした。慌てて周りを見わたしても、ここには奏とフェンリルしかいない。私は目の前のフェンリルを見た。どうやら私は、動物の言葉もわかるようになったようだ。


『何を呆けてるのだ。我の問いに答えぬか。』

 また頭の中で声がした。うん。やっぱりこのフェンリルが私に話しかけているんだ。

 奏はフェンリルを注意深く見ながら、問いに答えた。


『なるほどな。お主はほかの世界のものだったか。‥‥‥それも神の愛し子ときたか。ならばその膨大な魔力も納得がいく。』

 


 奏の話を聞いたフェンリルはどこか納得したように何かつぶやいた後、今いる場所について教えてくれた。

 フェンリルいわく、ここは魔の森という場所らしい。前の世界では聞いたことのない森なので、別の場所だと判断した。とにかく、このままでは飢え死にしてしまう。お金も稼がなくては何もそろえることができない。フェンリルに、ここから1番近い町を聞いた。


『ここから1番近い町を教えてやってもいいぞ。ただし条件がある。』

「条件?」

 奏は少し身構えた。表情は何とか無表情を保っているが、内心どんな要求をされるか気が気ではなかった。自分が思っている以上に、前の世界での事がトラウマになっているみたいだ。

 フェンリルはそんな私に気づいたのか、安心させるように体を摺り寄せた。

『なに、簡単なことだ。我と契約を結べばいい。お主に興味がわいた。我はまだフェンリルの中では若いほうだ。だが、強いぞ。魔法も使えるぞ。お主といれば面白そうだ。』

 フェンリルの言葉を聞いて、少し安心した。

「わかった。でも、そもそも契約って何?」

 そうなのだ。私は「契約」というものが、どういうものなのか全くわからない。前の世界で魔獣と言えばすべて倒すべき敵であったため、「契約」という言葉は本のどこにも載っていなかった。

『契約とは簡単に言えば、魔獣と契約者の間に特殊なつながりを作ることだ。魔獣と契約者はお互いに足りないものを補ったりしながら、助け合って生活をする。いわゆる、旅のパートナーのようなものだ。魔力量が多ければ、それだけ強い魔獣と契約できる。だが、契約する側の魔獣が了承しないと成り立たない。』


 奏はフェンリルの話しを真剣に聞いた。そして少し考えた後、まっすぐフェンリルを見た。

「わかった、契約の仕方を教えて。」

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