第13話 お陰様

生きていれば必ず誰かの助けを受けている。

目に見える形であれば分かり易いが、実は目に見える以上に与り知らないところで助けられていることの方が圧倒的に多い。

しかも目に見えにくくなればなるほど、とても大きな助けであったりする。

何故なら、助けてくれた人でさえもまた、違う誰かに助けられているからだ。


落ち着いて自分の周りを見渡してみると、どれだけの人たちの支えがあるのか計り知れないことに気付く。

自分一人でできることなんて、もしかしたら何一つないのかもしれない。


人間は傲慢な生き物で、自分が上手くいっているときにはそれを忘れがちになる。

勿論、頑張っているのは紛れもなく自分だろう。

でも、頑張っている自分をサポートしてくれている人たちを蔑ろにしてはいけない。

一時的な感情や独り善がりで突っ走ってはいけない。

お陰様の気持ちが薄れた瞬間から、ガラガラと音をたてて足元から崩れ始めてしまう。

若しくは、坂を転げ落ちる小石のように、途中で気付いても坂の下まで転がり続けるしかなくなってしまう。

足元が崩れたり、坂の下まで転げ落ちてしまってからでは、差し出してくれる手は殆どない。

そうなると自力で這い上がるしかなくなるわけだが、同じ場所まで登るのはとても困難なのだ。



一度は底辺から見上げて、そのあまりの高さに恐怖した。

この世に味方は誰一人いないとすら思った。

傲慢な過去の自分が今は全くいないとは言わない。

傲慢になりかけたら立ち止まるように声をかけてくれる人がいる。

その声を受け取れる努力を続けている。

その瞬間に受け取れないことがあっても、気付いた段階で「ごめんなさい」を言えるだけの信頼関係を築く努力を続けている。

勿論失敗することもあるけれど、その努力をやめてはいけないと思っている。

目に見えていようが見えていなかろうが、周りで自分を気にかけてくれている人たちに、見える形でお返ししなければ申し訳ない。



スマホを片手に画面を見るわけでもなく、電源が入ったテレビの方向を虚ろに眺め、溜め息を何度もついていたらしい。

子供が恐る恐るテレビゲームを勧めてきた。

「急に何だ?」と聞くと、「いや…何となくゲームしたらいいかなと思って…?」と恐る恐る疑問系で返ってきた。

多分だけれど、本当にそう思って勧めたわけではないのだろう。


殻に閉じ籠りかけていたので、思わぬ方向から割ってもらえて助かった。

お陰で年末から燻っていた気持ちを整理して、行動に移すことができた。

蓋を開いてみたら何てことはない、ただのすれ違いだったのだけれど。


お陰様。お陰様。


今の子供の姿があるのは私一人に依るところではなく、数多くの人たちが関わってくださったお陰なのだ。

思春期に入って反抗が増え、横柄な態度を取られることもあるけれど。

基本的には仲良くやれてると思う。


お陰様。お陰様。

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