第10話 誕生日

先日、子供が14歳になった。

保育園の頃は仕事ばかりしていて、一緒に過ごすのは睡眠中が大半だった。

とても聞き分けが良く、我が儘など言われた記憶がない。

言われるほどコミュニケーションはとれていなかったが…


今では思春期真っ盛りで、朝から子供のご機嫌を気にする毎日。

うん。

私にもあったよ、そんな頃が。

学校にすら行きたくなかった。

でも子供は楽しそうに学校へ通う。

有り難い。


我が家では当日に祝うことがほぼなく、誕生日が平日なら日を改めて週末にゆっくり祝う。

私が子供の頃からずっとそうだ。

今年は子供の都合で1日遅らせた。

毎年食べたいものを食べさせられることを嬉しく思っている。



9年前。

仕事と子育てとプライベートの配分を上手くやれなくなった時期がある。

缶コーヒーを片手にどこを見るでもなく、視線は虚ろに宙を漂わせながらタバコを吸うことが多かった。

一人でいても、隣に誰かがいても。


子供の誕生日に「しんどい」と溢したことがある。

その年の誕生日は平日で、その日も仕事が終わったのは子供が既に寝ている時間だった。

ちょうど連絡があったので、仕事終わりにそのまま出掛けた。

「しんどい」と言った私の話を黙って聞いてくれていたその人は、深く吸い込んだタバコの煙を吐き出して、こう言ったんだ。

「子供の誕生日ってさ。あなたが親になった誕生日でもあるよね。誕生日おめでとう。」

目頭が熱くなったのを覚えている。



今でもその人は私の他愛ない話や悩みを聞いてくれている。

子供が順当に大学を卒業するとして、自立まで残り8年。

昔貰った言葉を反芻しながら、子供と一緒に悩んで考えて進んでいけそうだと思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る