魔法

天野詩

私だけの魔法使い

 昔から一人で居ることが多かった。他人と関わるのが苦手だったからだ。


「ねえ、何読んでるの?」


 中学の時、彼女のそのたった一言によって私の世界は変わった。


「いとちゃん聞いて!さっきコンビニでアイス当たったの!」


「よかったね、でも早く食べないと溶けちゃうよ?」


「でもいとちゃんと食べたかったから」


 朝、学校で言葉を交わすだけで一日頑張れる気がする。


「うん、ありがとう」


 半分に割ったアイスを受け取ると、やはり溶けていたみたいで手に流れ落ちてくる。


「大変!いとちゃん手出して!」


「え?」


 彼女は私の手を取り、驚くことに口をつけてそのまま舐めとってしまった。


「セーフ、ってごめん!」


「ううん、ありがとう」


 やさしく頭を撫でてあげるとくすぐったそうに笑った。


 この暑さは夏のせいなのか、それとも……

  

 胸の高鳴りは収まらず、貰ったアイスの味は林檎のように甘かった。

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魔法 天野詩 @harukanaoto

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