第七話 すれ違うもの、重なるモノ
どれくらい経っただろうか。
少し落ち着いてきたところでベットから起き上がると、部屋の明かりをつける。
自室はようやく普段の明るさを取り戻し、そこにある生活感と日常、私の心の拠り所になるものがそのままであることに心底ほっとする。
端末をバッグから取り出し、好きなアーティストの曲をかけ、部屋がポップな雰囲気に包まれたところで、ようやく休日のテンションがやってきた。
明日は待ちに待った土曜だ。
アトウと再び会い、一緒にあの遊園地で遊ぶのだ。
この一週間、あの少女がどれだけ心の支えになったか。それはもう、計り知れないほどものだった。
日中少し気持ちが滅入りそうになった時に必ず着信があり、短い時間でも今日を乗り切る力を、勇気をもらえた。
瑞美が居なくなったことでぽっかりと空いた、深くて暗い心の穴を少しずつ埋めてくれた。
もしあの子が居なかったら、と思うと怖くなる。
たまにはこちらから電話しようかな。
そう思い、ポップな楽曲を止めると、着信記録からタップし、発信する。
すると、びっくりするくらいすぐに、彼女の声が耳元から聞こえた。
「に
「あ、アトウちゃんこんばんは。ごめんね、急に電話しちゃって」
「
おかしい。頭の中に雑音が響く。ずいぶん昔にこの経験をしたような気がする。
だが、思い出せない。
でも、どうでもいい。
アトウとの通話は、今の私にとって数少ない幸せだ。視線が来ようとバーコードタコ室長が来ようと邪魔はさせない。
私は彼女の声に集中した。
「
「私も楽しみで今日寝られるか分からないくらいだよ。どんなものに乗りたい? 絶叫マシーンとか?」
「|そうだねえ……、大観覧車には乗りたいかなあ《掛け直し下さい。あなたがお掛けになった》」
大観覧車。瑞美との決別があった場所。
思わず左頬の筋肉がびくり、と収縮するのが分かる。
でも。
「うん。アトウちゃんと一緒にゴンドラ乗りたいな」
「本当?! 私もお姉ちゃんと……その」
電話の向こうで、えへへ、といつものようにはにかむ声が脳を揺さぶる。
この上なく満されているような多幸感が押し寄せてくる。
辛い別れもこの声を聴いていれば忘れられる。
私は今、幸せなんだ。
まるで夢の中を漂っているかのように。
*
アトウとの時間が終わると、丸めたタオルケットを抱きしめつつ、ベッドに何度も転がりうんうんと唸る。身体の熱を収めるため温いシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かしパジャマに着替え、再びベッドに転がり込むと。
端末から軽やかな着信のメロディーが流れる。ディスプレイを見ると、そこには「木下瑞美」と表示されていた。
緊張で震える手で端末を取り、指を右左と
「もしもし、祥子ちゃん。瑞美です」
「あ、瑞美。……こんばんは」
「うん、こんばんはー。元気にしてた?」
「うん。何とかね」
あまりにもあっけらかんとした声音に、思わず瑞美を責める言葉が出てきそうになるのをぐっと堪え、短く答える。
電話の向こうにいる彼女は、さして気にしたふうでもなく、
「ねね。明日とか、遊びに行かない?」
「え……」
「ほら、結構時間空いちゃったから。祥子ちゃんが行きたかったあの遊園地とか、どう?」
「何、言ってるの」
怖い。
「先週行ったでしょ。それに私達、もう終わりだって」
「へ? もう何言ってるの」
「わ、わけわかんないよ。急にあんなこと言われて、付き合ってもう五年だよ? それに、今度
気持ちが溢れる。想いが湧き上がって、全身を強い悪寒が駆け巡る。
「あの旅行で、その、そうなって。幸せで、やっと私を受け容れてくれる人が出来たって。嬉しくて、なのに」
「え、え、え? 旅行? いつの? あ、スノボの時のとか?」
「大学三回生の、岩手の鍾乳洞に行った時の」
「へ? え? そんなことあったっけ?」
混乱する声が聞こえる。
それで分かってしまった。瑞美は、「私との思い出を全部捨てた」んだ。
「も、もういいよ。終わったんだよ。好きになってくれてありがとう、愛してくれてありがとう」
「え、ちょっと、祥子ちゃん?! 私、こんなタイミングで言うのもなんだけど……、その、凄く大事で。だからそんなこと言わないで、本当はもっと一緒に」
「もう、いいよ!」
赤いボタンを押す。
ツーツー、という平坦な音だけが耳元に響く。
その後、何度かかかってきた電話を全て無視し、マナーモードにしてタオルケットを
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