第9話 秋雨の夜

どこからか、祭囃子が聞こえる。

こんな、今にも雨が降りそうな涼しい晩に、夏祭り、いや、秋祭りだ。


微かにしか聞こえないから、多分離れた所だろう。神社かもしれない。


ニュースを見ながら、妻が、

「今度選挙があったら、一緒に行こうね」

と言う。


今まで妻は外国人だったから、選挙権がなかった。しかし日本国籍を取得したので、これからは投票ができる。


彼女の前の国は、1党支配の国だから、投票なんかなかった。

きっと、彼女は嬉しいだろう。選挙権があるということが。


ー風呂に入ろうかな。

ぽつりと彼女が言う。

仕事が休みの私と、学校が休みの息子の3度の食事を作り、皿を洗って大変だったろう。


ー風呂のお湯くらい入れてやるよ。

ー本当? ありがとうございます!


毎日毎日掃除に洗濯、3度の食事、大変だったね。いやになることもあるだろう。よく、28年も続けてくれたね。


それを考えると、風呂を洗ってお湯を張るくらい、お安い御用だ。


そうそう、今度選挙があったら一緒に行こうね。

親子3人で行ってもいいね。

近くの投票所まで歩いて行こう。

第3中学校だよ、投票所は。


お囃子はそちらの方から聞こえているような気がする。

中学校の近くに神社がある。

毎年初詣に行く神社。

ーあの神社かもしれないね。

私が言うと、

ーうん、きっとそうだよ。

と彼女が言う。

しかしザーッと雨が降ってきた。私は、

ーあいにくの天気だね。

その時、風呂が沸いた。

ーゆっくり入るといいよ。


お囃子は雨にかき消されて聞こえない。


寂しい秋祭りの夜。


雨の日の秋祭り。

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カフェオレ(1話ごとに完結) レネ @asamurakamei

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