第125話 しゃぶれるもんならしゃぶってみんかい!
浅い睡眠から目を覚ます。
眠気を覚ますため湧き水で顔を洗い意識を覚醒させる。その後、しっかりストレッチをした。
体がほぐれたら、野営の後片付けを済ませる。
森の浅い部分ということもあり、野営中にモンスターの襲撃はなかった。
適当な獲物でも仕留めて朝食にしようと思ったが、昨日しとめた
戦う力が弱い分、彼らは危険に敏感だ。
朝食を現地調達できなかったのは残念だが、町に帰って屋台で少し遅めの朝食を買って帰るのも悪くない。
慣らしついでにパピーと少しだけ森を走り回った。パピーのストレスも随分と解消されたように見える。
俺も、パピーとイチャつきながら運動をしたことでリフレッシュできた。
いつもの
ついでに、依頼品のナール草を探す。
街道からそれほど離れていない森だったが、運良く群生地を発見。欲張らず、依頼の数だけ丁寧に採取する。
群生地の場所を頭に叩き込むと、再び町へと向かって移動した。
トゥロンの町が近くなり、森が途切れた。ここからは街道を歩くしか無い。
トゥロンへと続く街道は、馬車がひっきりなしに通っている。食料品などを持ち込み、帝国の品を積み込んで帰るのだろう。
人の往来が多いため、町の近くでは盗賊など存在しない。それでも、高価な品を積んでいる商人が多いため護衛たちはピリピリしている。
治安の悪いこの世界で一人行動する人間など、なにかやらかして他所から逃げてきた冒険者ぐらいのものだ。
俺の特徴的な外見もあり、いつも過剰なほど警戒される。なるべく護衛たちを刺激しないよう、彼らから距離を空けゆっくり歩く。
森を移動するより、街道を移動する方が気を使う。まったく、皮肉な話だ。
面倒臭いが、変に誤解されてぶった斬られるよりはいい。
町の入り口は相変わらず順番待ちの列が続いていた。
トゥロンの町は、今まで見たどの町よりも効率的なシステムを採用している。それでも、訪れる人の数が半端ない。そのため、どうしても順番待ちが長くなる。
順番待ちの人々をすり抜け、冒険者用の入り口へと向かう。顔見知りの衛兵に、帰ってこなかったことを心配された。
俺自身が心配というより、俺が死ぬと差し入れが無くなって困る。そんな感じだったが、今はそれでいい。
俺がいなくなれば損をする。そう思ってくれれば上々。個人的に親しみを持ってくれ、俺がいなくなると寂しい、悲しいと思ってくれれば最高だ。
こうやって、少しずつ関係を強化していけばいい。
屋台で串焼きなど、テイクアウトしやすい商品をいくつか購入。冷めないうちにと、足早に宿へと向かった。
宿に到着すると、予定外の外泊をコンシェルジュさんが心配してくれた。礼をいい、社交辞令をいくつかかわす。
その後、本題とばかりに「伝言を預かっております」そう切り出した。
今日中ならばいつでもいい。条件を詰めたいので薬師ギルドに来てくれ。担当者の名前とともに、そう告げられた。
今日中ならば、慌てることはない。
俺は、ルームサービスにパンとスープを頼む。
普通の市場やパン屋に売っているパンは無発酵のパンが多い。インドのチャパティみたいな薄焼きパン。雑穀混じりのライ麦から作られた、酸味のある黒パン。小麦の全粒粉を使った堅焼きパン。などなど、日本の柔らかいパンに慣れた俺には辛いラインナップだ。
この宿のパンは、おそらく天然酵母で発酵させたパン種を使っている。
日本でよく食べていたイースト菌を使い、二次発酵までさせたふわふわのパンほどではない。それでも、他のパンに比べると十分に柔らかく口当たりも良い。
スープもまた、屋台のスープでは出せない深みと旨味がある。
うまい分、文字通り桁違いの料金を取られる。ただ、一度慣れてしまうとグレードを落とすのは難しい。
幸い、金には困っていない。
パピーも味覚が鋭敏なのか、味の判別はしっかりできている。屋台のスープに比べて、宿のスープは嬉しそうに飲んでいる。
屋台のメニューをおかずに、高級パンとスープを食う。アンバランスな食事だが、屋台のジャンクな旨味もまた格別。
たまにハズレを引くが、それもご愛嬌。パピーと二人で、微妙だね……。と盛り上がれるので、それはそれでありだと思う。
さて、楽しい時間はここまでだ。
ルームサービスを頼み、お湯を運んでもらう。お湯を浸した布で体を拭くと、綺麗な下着に着替えた。
部屋に備え付けてある銅板鏡を見ながら、カミソリで髭を整える。
今回パピーはお留守番だ。パピーのトイレ用に桶を用意して、食料をいくつか置いて出かける。フロントに、『今日は部屋の掃除を控えてくれ』と伝え外に出た。
薬師ギルドに向かいながら、冷静になれと自分に言い聞かせる。
パピーのおかげで勇気をもらった。
だけど、急に強くなった訳じゃない。俺は相変わらず弱者。薬師ギルドとの交渉も細心の注意を払わなければいけない。
パピーに指摘されて気付いた。自分がいつの間にか卑屈になっていたことに。自分では冷静に交渉しているつもりで、気が付けば相手の顔色を
人間は上から押さえつけられると、知らず知らずのうちに卑屈になる。
他人に馬鹿にされ、強者に押さえつけられ、自分の無力さを思い知らされる。すると、いつの間にか自信を失ってしまう。
そうやって失った自信を、パピーは思い出させてくれた。
強者に対して強く出られないのは同じだ。でも、相手の顔色を窺って接すると骨までしゃぶられる。
頭を下げながら、相手の見えないところでは舌を出して笑っている。商人のような『したたかさ』が必要だ。
俺はもう大丈夫。
他人がどう思っても関係ない。パピーが俺をすごいと言ってくれた、それだけで十分だ。やけっぱちで考えていた前回とは違う。
俺のケツ毛をムシっても、そのケツ毛は綺麗じゃねぇぞ。
俺の骨、しゃぶれるもんならしゃぶってみんかい! 俺は薬師ギルドを睨みつけると、前へと足を進めた。
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