第98話 冒険者の実態
一般市民から見た『冒険者』のイメージは、一般市民に迷惑を掛ける高レベルで厄介なゴロツキ。そんなイメージだろうか。
実際そうだし、一般人よりレベルの高い荒くれ者や犯罪者崩れが多いのも事実。
だけど、社会的に見ると圧倒的弱者だ。常に搾取されている。それはもう悲惨なぐらい。
ギルドで冒険者に提示されている報酬額は、ギルドの取り分1割と税金3~4割を引いた金額になっている。
報酬の半分近くを抜かれているということだ。それだけでも悲惨なのに、税金を徴収されているのに公共サービスを一切受けられない。
一般市民と違い人頭税を払っていないので、住人とは認められなためだ。衛兵に頼ることもできないし、公平な裁判を受ける権利もない。
衛兵に賄賂を要求されたり、不当拘束からの財産没収獄死コンボなんかもかましてくる。
不当な拘束、財産の没収は、国の法で禁止されている。
しかし、法律で守られている側の冒険者にその知識がないためやりたい放題だ。相手が貴族なら言うまでもない。
裏ギルドの連中にも食い物にされている。
必要悪として、裏ギルドや冒険者は町に存在することを許可されている状態だ。
だが、冒険者は所詮流れ者。権力者側としては、町に根を張る裏ギルドを優先する。流れ者の冒険者と裏ギルドが揉めた際、町の権力者側は裏ギルド側に付く。
そして、組織だって動いている裏ギルドは厄介だ。高レベル冒険者は個人としては恐ろしい戦力かもしれない。
しかし、冒険者も四六時中気を張っているわけにもいかない。
毒殺、ハニトラ、権力者の後ろ盾を使った冤罪。裏ギルドは、ありとあらゆる方法で冒険者を殺すことができる。
多少腕が立つ個人程度では太刀打ちできない。それゆえ、冒険者は裏ギルドには逆らえない。
ロック・クリフの買い取り所のように、間接的に利益を吸い上げられることもあれば、堂々と上納金を要求されることもある。
裏ギルドから見ても、冒険者は搾取の対象でしかないのだ。
市民と違い
一般市民も冒険者から搾取している。
粗暴な冒険者の被害に遭っている哀れな市民。ゴンズから強制的に値引きを強要された店主などを見ると、一般市民は冒険者の被害者に見える。
だが、一般市民もやられっぱなしではない。
市民の中でも力のある人間にとって、冒険者は餌にしか過ぎない。
もっとも、やり過ぎると怒り狂った冒険者たちに店を焼き討ちされるが。
大商人、豪商といった権力者だけではなく、一般的な商人や市民も冒険者を食い物にしている。
計算ができない冒険者が多いので、店で釣り銭をごまかされたり、粗悪品を高値で売りつけられることが多いのだ。
さらにひどいと、あらゆる店から販売を拒否される。
冒険者側の自業自得の場合も多いが、中には『いじめ』として行われることもあるという。
一般市民は冒険者に迷惑を掛けられているが、一般市民の方も冒険者を食い物にしていることが多いのだ。
ギルドに搾取され、衛兵に搾取され、裏ギルドに搾取され、一般市民にすら搾取される。これが冒険者の実態だ。
3級以上の上級冒険者になれば話は別だが、上級冒険者は数が非常に少ない。
小国家群には存在せず、大国であるメガド帝国やリーガム王国に極少人数存在しているだけだ。
上級冒険者は貴族と同等の権利を持つ。
平民が上級冒険者の釣り銭などごまかした日には、家族共々広場で吊るされることになる。
上級冒険者ほどではないが、中級冒険者も市民にはかなり一目おかれている。個人の戦力が高いため、馬鹿ないじめの対象にはなりにくい。
金銭的にもかなり裕福だ。
市民によって行われる、多少の搾取ぐらいは屁でもないだろう。それでも、搾取されていることには変わらない。
そんなくそったれな世界で、俺は幸運にも仲間に恵まれ、環境に恵まれた。
ゴンズをビビって、多くの商店は正直な商売をしてくれた。アルのおかげで、危険な裏ギルドに目を付けられることもなかった。だが、今後もそうとは限らない。
圧倒的な社会弱者である冒険者として、最も栄えている町に対して、危機感を最大にしておかないといけない。
ギルドに搾取されるのは、ある程度しょうがない。
衛兵に賄賂を渡すのも、よしとしよう。権力者にはなるべく逆らわない方がいい。
一般市民からの搾取は、よほどひどくない限りは甘んじて受け入れよう。
危険な裏ギルドからの搾取も、逆らうのは得策ではない。
しかし、全てを受け入れていたら生活ができなくなる。稼いだ金を全部持っていかれれば、意味がない。
そして、この中で一番分別がなさそうなのが裏ギルドだ。
税金は仕方がない。衛兵の賄賂も、獄死コンボを避けるためには必要だ。
この文化レベルの衛兵に倫理観を期待するのは難しいが、あまりにもやりすぎると良くない。という認識は衛兵たちにも存在する。
市民に搾取される金額などたかがしれていはずだ。それに、店は複数あるため俺には選択の余地がある。
しかし、裏ギルドは別だ。実際裏ギルドの人間と話したことはないが、分別があるとも思えない。しゃぶれるだけしゃぶり尽くして、用済みになれば消す。
そんなイメージしか裏ギルドには持てない。
もしかしたら、高度に統率された組織で、衛兵たちのように生かさず殺さず搾り取る。そんな方法が確立されているかもしれないが、それは考えにくい。
一度目をつけられたら、もうどうしようもないかもしれない。
そうなれば町から逃げればいいだけだが、なんからの事情で町から離れられない事態が発生する可能性もある。
万が一裏ギルドと揉めたときに、最悪戦う覚悟は必要だ。もちろん、逃げられるならそれが一番だとは思うが……。
裏ギルドに対して頭を悩ませていたが、考えても仕方ない。
実際、裏ギルドと揉めるとは限らない。
馬鹿の考え休むに似たりというが、馬鹿が頭を使う負荷は半端じゃない。休みと比べるなんてとんでもない。
ものすごい精神的な負荷と疲労を感じる。
もちろん、効果がないから休んでいるのと一緒。という意味だろうが、考えている馬鹿は大変なのだ。
無駄に疲れるのは止めよう。考えても仕方ない。
できることはやった。後は、実際に問題が起きてから対処するしかない。起きてもいないことを考えても、俺の頭じゃ疲れるだけだ。
そろそろ日も暮れてきた。森に入って野営の準備をしょう。
社会の底辺である冒険者。その名の
俺はそう自嘲すると、野営地の設営を始めた。
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