はじめてのKILL

第07話 プロローグ

 村娘から危険を知らされた俺は、ワイルドな村人から逃げるため全裸で森に逃げ込んだ。


 意識を失っている間に村へ運ばれたので、現在地がわからない。俺は一旦、ホブゴブリンと戦った場所まで戻ることにした。


 痕跡をたどり、戦いの跡地へと向かう。


 踏み散らかされ、血を吸った地面が見えた。間違いない、俺がホブゴブリンと戦った場所だ。


 ここからなら、拠点への道が分かる。




 怪我で軋む体に鞭打ち、何とか拠点まで帰ってきた。木の洞を利用した、俺の気に入っているタイプの拠点だ。


 すぐにでも横になりたかったが、虫除けに拠点を燻蒸する必要がある。火をおこし、いつも使っている虫除けの木を燃やす。


 傷口を衛生的に保つため、泥を身体に塗れない。泥に寄る防虫効果を期待できない以上、念入りに虫除けをする必要がある。


 しっかり身体を休めるため、クッション性の木の枝を組んだ骨組みに大き目の葉っぱを乗せた手製のベッドを作る。


 このベッドもしっかりと燻蒸くんじょうして虫よけを施した。


 野人生活中にどの木が一番虫が嫌がるのかテスト済みだ。一番効果がある木を使っている。多少、匂いはキツイが背に腹は代えられない。


 煙が目立たないように、住処のある木の上に枝と葉っぱを組んで作った簡易フィルターを数層用意してある。


 此処を通る間に煙は目立たなくなり、外から見つかりにくくなるのだ。


 昔読んだサバイバル本の内容と、ゴ〇ゴ13で主人公がやっていた方法を自分なりに組み合わせて今の形にたどり着いた。


 拠点を作り周りを探索し、新たな拠点候補が見つかれば移動して拠点を作る。そうやって移動してきたため、拠点作りはお手の物だ。


 ただ、常に拠点で寝られたわけじゃない。拠点に適した場所がなく、ツタで体を縛り木の上で眠る。そういう状況も少なくなかった。


 レベルアップで頑強になった肉体がなければ、耐えられなかっただろう。



 拠点に残しておいたスパイシー干し肉を齧りながら、俺は煙が消えるのを待った。


 デカイ鹿もどきの膀胱から作った水筒がなくなったので、水の補給が不便だ。竹でも生えてたら楽だったのに。


 竹があれば、簡単に水筒が作れるはずだ。その他にも、竹細工や竹炭。竹槍や罠など、様々な物を作ることができる。


 残念ながら、この森で竹を見かけたことがなかった。竹さえあれば、サバイバル生活も少しは楽になったかもしれない。


 そんなことを考えながら煙を眺めていると、煙がどんどん薄くなってきた。


 燻蒸が終わると、罠の設置だ。木のツタで作ったロープに木の板をくくり付け、鳴子もどきを仕掛ける。


 入り口を岩でふさぎ、木や落ち葉を使い入り口を偽装してようやく一息ついた。


 ここは、村からそれなりに距離がある。


 俺が逃げた時点で、村の人間はホブゴブリンの素材を手に入れた。最大の目的は果たしたはず。


 俺を殺すため、ゴブリンの徘徊する危険な森の中を探索するリスクは侵さないだろう。


 もし俺を探したとしても、この広い森で村から離れた俺の拠点を探し当てるのは難しい。


 最低限の警戒は必要だが、警戒しすぎる必要はないはずだ。



 俺はベッドに倒れこみ、横になる。命を狙われたせいで神経が尖っていたが、傷を負った体は休息を求めた。


 尖った神経とは裏腹に、俺の意識は沈んでいく。俺の命を狙った村人への、仄暗い怒りを抱えたまま――。



 目が覚めた俺はストレッチをしながら怪我をチェックする。


 ホブゴブに噛まれた傷は化膿もせず順調に回復しているようだ。怪我に効くこのスーッとする葉っぱのおかげだろうか。


 この葉っぱを薬草と名付けよう。我ながら安直なネーミングだが、わかりやすいのが一番だ。


 まだ無理はできないが、食材を集める必要がある。怪我の回復には栄養が必要だ。たっぷり食べて、早く怪我を治さないといけない。


 干し肉を齧りながら、果実、激辛トウガラシ、薬草などを採取しつつ動物の痕跡を探す。泥で匂いを消せないので、風下からの探索になり効率が悪い。


 動物の痕跡が見つからなかったので、猟はあきらめることにする。


 もう一つの必需品を作ることにした。そう、腰蓑こしみのである。野人生活とは言え丸出しはさすがにつらい。


 ぶらんぶらんして、太股にペチンペチンとワイのビッグボーイが当たってうっとうしいんや! ああ、嘘だよ。小さいよ。ビッグボーイどころかリトルキッドだよ、ぐすん。


 たとえリトルキッドでも文明人として丸出しは恥ずかしい。文明的な生活を目指して腰蓑こしみの作りを始めることにした。


 まずは材料の確保だ、繊維質の木を探す。


 レベルアップによる肉体強化で細い木ぐらいなら素手で簡単に折れるようになっている。怪我をしていても問題はない。


「えいしゃおらー」


 俺が以前腰蓑こしみのの木と命名した、繊維質の多い木を発見したので蹴りで折る。


 皮の部分で微妙に引っ付いている部分をとどめとばかりに引きちぎり、拠点へと運んだ。


 樹皮を剥がし荒い外皮から内皮を剥がす。股間はデリケートなので、柔らかい内皮を直接触れる部分に使用するのだ。


 外皮と内皮を燻蒸くんじょうして虫除けをする。初めて腰蓑を作ったとき、この作業を忘れて股間がえらいことになった。もう同じ過ちは繰り返さない。


 内皮を帯状に裂き、腰の周りを一周させる。結び目を作り、多少サイズ調整ができるようにする。


 この腰周りに、ベルト状に巻いた内皮に引っ掛けるように内皮をかけ結んでいく。


 内皮で全体を二重に覆った後、頑丈な外皮を内皮の間に差し込みながら結んでいく。最後に、外皮で全体を覆えば完成である。


 しかし、今日の俺はいつもと違う。この世界が俺に文明的な暮らしをさせないのなら、自力で文明的な暮らしをしてみせる。


 内皮を細長く裂いた物を二本用意する。指で時計回りにねじりながら反時計周りに二本を巻き付ける。


 こうすることで、お互いが戻ろうとする力がかみ合ってほどけにくくなるのだ。この手法でいくつか紐を作る。


 紐を編み込みながら模様を作るのだ。複雑な模様は作れないが、森の中で見た綺麗だと思った花の模様を編み込みで作っていく。


 多少いびつながら花を象った編み込みができた。これを腰蓑こしみのに結びつける。ふふふ、ファッションに気を使う。なんて文明的なんだ。


 もう野人からは卒業である。


 怪我が癒えるまでは、激しい狩りやゴブリンを倒してのレベル上げはできない。干し肉やドライフルーツを消費しながら、無理せず傷を癒そう。

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