第06話 エピローグ

 目を覚ますとわらが見えた。わらぶき屋根というやつだろうか。


「知らない天井だ」


 異世界に来たら言ってみたかった台詞を言い、にんまりしているとズキンと痛みが走った。


 そうか、ホブゴブと戦ってそのままぶっ倒れたんだった。どうやら俺は助かったらしい……。

 

 落ち着いて現状を確認すると、俺は全身の泥を落とされ全裸のまま粗末な木のベッドに寝かされていた。


 ホブゴブに噛まれた傷はスーッとする草を当てられ、綺麗な布を巻かれている。薬草と包帯だろうか。


 結構な出血だったが、血は完全に止まっていた。手当ての腕が良いのか、このスーッとする異世界産の薬草がすごいのか。


 とりあえず失血死する事はなさそうだ。


 反対側に折れていた右手の指も、まっすぐに伸ばされ木の棒に包帯で固定されていた。


 肋骨も添え木と包帯で固定されている。


 泥を落としたという事は、衛生概念があるのだろうか。清潔な布と的確な治療、家は粗末だが文明度は俺が思っている以上に高いのかもしれない。





 体中が痛いが何とか生きている。呂律も回る、手足の痺れもない。脳も大丈夫だろう。ほっと一息入れてから、ステータス画面を開いた。


レベル

12

スキル

空手


 ホブゴブと戦う前はレベル10だった。一気に2レベルも上がってるのか、どれだけ格上だったんだホブゴブさん。


 よく勝てたもんだ、我ながら無謀な事をした。次からは気を付けよう……。


 いつのまにか、スキルの表示がちゃんとした空手になっている。いじりに飽きたのか、強敵を倒して少しは認められたのか。どちらにせよ良い気分だ。


 あれ、よく見ると項目が増えている。


 称号? おお、強敵を倒した事で、勇者とか森の支配者とかそんな感じの称号がついたのかな? どれどれ。


レベル

十二


スキル

空手


称号

新種のゴブリン


「誰が新種のゴブリンじゃい!」


 神め、こっちでいじって来たか! っていうか称号の項目、今足しただろ! 急に出てきたぞ。


 誰がゴブリンやねん、ゴリゴリの人間じゃろがい。結局いじってくんのかよ。引くわ~、マジで性格わるいなあの神様。


 俺が性格の悪い神のいじりに辟易へきえきとしていると、誰かが走ってくる気配がした。


「ゴブリンさん、ゴブリンさん。大変です、起きてますか? ゴブリンさん」

「誰がゴブリンやねん!」

「いいか、村娘。俺は人間だ、俺の名前は」

「今はそういうのいいんです」

「ぐぬぅ」


 前に言った台詞をそのまま返された。この村娘、なかなか良い性格をしている。


「それより大変なんです、すぐに逃げてください」

「え? どういうこと?」

「村長達が、ゴブリンさんが寝てる間にゴブリンさんを殺して、ホブゴブリンの素材を自分達の物にするって話していたのを聞いてしまったんです」

「は……マジですか」

「マジです」


 異世界の村ワイルド過ぎるだろ。そう考えていると、こっちに向かってくる集団の気配を感じた。


「ゴブリンさん、早く逃げてください」


 そう言われて俺は森へと駆け出していた。一瞬返り討ちにしてやろうかと思ったが、全身傷だらけで相手は大勢、逃げるしかない。


 せっかくの文明が……。


 俺は結局、全裸で森に逃げこむしかなかった。



 俺の名は野人。全裸で異世界の森に落とされた悲しき転生者である。どうやらこの世界は、俺に文明的な暮らしをさせるつもりが無いらしい。


 今日も名を知らぬこの異世界で、野人暮らしを送っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る