第2話

「二年生、三年生の皆さん、進級おめでとうございます」


光沢のあるこげ茶色の壁を見つめながら、夏希はこっそり一息つく。


傷一つない体育館での始業式。

先の尖った帽子をかぶった校長先生の話。

誰か彼に、話は手短な方が好感度が高いということを教えてあげてほしい。


夏希の隣に座る猫が足をぶらぶらさせはじめた。


「こら、ひなた」


こっそりと名前を呼び、白い毛を撫でると、ひなたは大人しく座り直した。


校長先生の話を聞き流しながら見た壁や床にはやはり傷一つない。

去年、暴動のような授業が毎日行われていたというのに。


夏希は一年生の頃を思い出し、身震いした。


真っ黒なローブに身を包んだ上級生たちが箒に乗り、バレーボールのコートの中で魔法を撃ち合っているところに放り込まれたのだ。

入学三日で。


ボールネットもコートもなんのためにあるのかわからないまま、穴だらけになっていく壁を隅っこで見つめ続けていたのだ。

夜、寮で母に電話をし、ある事ない事長々と話したが、帰ることは許してくれなかった。


大学が夏休みの間だけ、祖父の通っていた学校に。

父が提案したことだった。

全寮制の学校で疑似独り暮らしを三年も続ければ人として成長できると考えたらしい。


母よ、「おじいちゃんは魔法使いだったのよ」という言葉をそのままの意味で受け取る人間は基本的にいないのだ。


それから約ひと月半、座学で魔法を学び、体育館やマンモスのような巨大な校舎で実践を行った。

時には自室で鍋を焦がして、ひなたや枕に八つ当たりをした。


今年はそうはいかないぞ。

そう思いながらもわくわくと手汗が止まらなかった。


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