第26話 セクシー路線にはまだ早い?
「ふうっ、奈緒ったら私達の事なんか完全に頭から飛んでっちゃってるわね」
その場に取り残された真由美が呆れた声で言うと真白が苦笑いしながら答えた。
「まあ、奈緒の事だからしょうがないんじゃないかな? じゃあ私達も水着、見ましょうか」
真白の口ぶりからすると真白と真由美も水着を新調する様だ。それに食いついたのはもちろん信弘だ。
「私達って、お前等も水着買うのか?」
「うん、せっかくだからね。奈緒じゃ無いけど、高校生になって初めての夏だし」
真由美が言うと、信弘にスイッチが入った。
「よし、俺に任せとけ! お前の水着は俺が選んでやる!」
正直なところ信弘は、奈緒(郁雄の彼女)の水着選びなどどうでも良かった。だが、真由美(自分の彼女)の水着を選ぶとなれば話は別だ。目を輝かせ、嬉々として品定めを始めた。
「じゃあ、ちょっと待ってて下さいね」
奈緒は郁雄を一人残して試着室へ入り、試着を始めた。鼻歌混じりで制服を脱ぎ、まずはビキニから着けてみた奈緒。フラットボディに赤いビキニ。まあ、そういう需要も無い事は無いのだが、奈緒の言う『大人』には程遠い感じだ。しかし当の本人はご満悦な様子で鏡に見入っている。
「うーん、さすがは私。このパーフェクトな魅力を郁雄先輩に……って、はっ!」
奈緒は大変な事に気付いた様だ。
「ああ……下着が見えちゃってるよ……」
下着が小さなビキニからはみ出して、ブラもパンツも丸見えになってしまっている。下着よりも布地が少ない水着姿を見せられるのに、下着を見られるのは恥ずかしいというのだから乙女心というのはややこしい。
溜息を吐きながら奈緒はビキニを外し、ワンピースを着けた。パンツの方は水着に押し込める事が出来たが、ブラの紐は隠しようが無い。
「これじゃ郁雄先輩に見せられないな……」
テンションが下がってしまった奈緒が冷静に鏡を見るとそこには悲しい現実が映し出されていた。
ウエストのくびれは奈緒の自慢だ。しかしその上は、ただでさえフラットな胸が白い水着の為に陰影が乏しく、よりフラットに見えている。悲しくなった奈緒は黙ってワンピースを脱ぐと、真白が選んだオレンジのセパレーツに着替えた。
「コレなら大丈夫かな」
奈緒の着けていた下着は大きめのセパレートの水着の下にしっかり収まった。安心して鏡を見る奈緒の目に、鮮やかなオレンジの水着を身に着けた元気そうな女の子が映った。水着のトップを飾るリボンが胸の小ささを可愛くカバーし、その下にはキュッと締まったウェストに可愛いおへそ。更に下に目をやるとボトムからスラリと伸びた引き締まった足。真白の見立て通り、その水着は奈緒の健康的な魅力を余すこと無く引き出していた。
「まだ私にはセクシーなのより可愛いのがお似合いって訳ね」
奈緒は軽く笑うと水着を外し、制服に着替えて試着室を出た。
「あれっ、奈緒、セクシーな水着姿を見せてくれるんじゃなかったのか?」
制服で出て来た奈緒に郁雄が尋ねると、奈緒は申し訳なさそうに答えた。
「ごめんなさい、まだ背伸びは早いってわかっちゃったから」
「そっか。じゃあ、そっちのは?」
言いながら郁雄はオレンジの水着を指差した。すると奈緒の表情は一転、いつもの元気な奈緒に戻った。
「それはね、明日のお楽しみ!」
言うと奈緒はセクシーな二点の水着を戻し、オレンジのツーピースを手にレジへと歩き出した。郁雄は優しく微笑むと、奈緒の後を追った。
浩輔と真白そして信弘と真由美は、それぞれ水着選びに勤しんでいた。
「これなんかどうかな……」
真白が手にしたのは淡いピンクのワンピース。奈緒に対しては素晴らしい選択眼をして的確に奈緒の魅力を最大限に引き出す水着を選んだ真白だったが、自分の時はそうはいかなかった。大胆な水着を選ぶ奈緒とは逆に、自分に自信が無いのか無難なものばかりに目をやっている。それを見かねた浩輔の目に、白のセパレーツが飛び込んで来た。
「稲葉さん、コレなんか、稲葉さんに似合うんじゃないかな?」
トップには二重のフリルがあしらわれ、奈緒と違って豊かに育った胸を可愛く飾り、ボトムにはスカートが付いていて清楚な可愛さを演出している。
「こんな大人っぽいの、似合うかなぁ……」
浩輔の見立てた水着に躊躇する真白。実は真白は今までワンピースの水着ばかり着ていて、セパレートの水着は初めてだったのだ……奈緒には勧めていたくせに。
「大丈夫、稲葉さんだったらバッチリだよ!」
太鼓判を押す様に言う浩輔に、真白は恥ずかしそうにそれを手に取った。
「じゃあ、ちょっと試着してみようかな」
そう言う真白の手には無難なピンクのワンピースもしっかり持たれていた。
試着室に入った真白は、まず自分で選んだピンクのワンピースを着てみた。鏡の中に去年とほとんど変わらない自分の姿が映っている。全身をチェックした真白は独り呟いた。
「やっぱりこういうのが私らしいわよね」
続いて浩輔が見立てた水着を着けてみる。胸の谷間が露わとなり、胸の下から腰骨の辺りまでは完全に無防備。ボトムにはスカートが付いているが、『超』が付くほどのミニスカートを履いている様な感じがして逆に落ち着かない。
「コレはちょっと恥ずかしいかな……」
奈緒にセパレーツを勧めておきながら、自分はお腹を出すのが恥ずかしいのだろうか? 鏡に映る自分の姿を見ながらもじもじする真白。
カーテンが開いて試着室を出た真白は奈緒と同様に制服姿だった。もちろん浩輔は郁雄と同じく水着姿の真白を期待していたのだが、落胆を隠し、平静を装って尋ねた。
「どう? 決まった?」
「はい。決まりました」
笑顔で応える真白に浩輔は更に突っ込んだ事を聞いた。
「それで、どっちにするの?」
「それは内緒です。明日のお楽しみにして下さい」
真白はレジの方に歩き出し、振り返って照れ臭そうな笑みを浮かべて言った。
「お会計してるところは見ないで下さいね。どっちを買ったかわかっちゃいますから」
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