第27話 そして事件は起こった……と言うか、真由美が怒った

 信弘と真由美はと言うと、予想通りと言うかお約束と言うか、信弘が際どい水着を見ては真由美に却下されまくっていた。


「じゃあ、コレなんかどうだ?」


 めげること無く信弘が真由美に差し出したのは目にも鮮やかなショッキングピンクの派手なビキニ。もちろん布地はもの凄く少ない。


「あのね、一つ言って良いかしら?」


 業を煮やした真由美が声を震わせながら言った。


「ノブ君にとって私って何?」


 ここで一つの事実が判明。真白は浩輔を『浩輔先輩』と、奈緒は郁雄を『郁雄先輩』と呼んでいたのに対し、真由美は信弘を『ノブ君』と呼んでいるのだ。これは『彼氏彼女』という関係に拘った信弘が『信弘先輩』と呼ばれるのを好まず、何か愛称で呼んで欲しいと望んだからなのだが、どうでも良いか、そんな事。


「何って……俺の彼女だろ?」


 即答する信弘。真由美は肩を落として溜息を吐いた。


「私のコト、彼女って思ってくれてるんでしょ? だったらどうしてそんな派手な水着ばっかり勧めるワケ?」


「そりゃ、お前の魅力を最大限にアピールする為に決まってるじゃんかよ」


 悪びれもせずに言う信弘。もちろん本音は『自分が見たいから』だ。それともう一つ。信弘はそれを口に出して言ってしまった。


「それによ、自分の彼女が注目されたら気分良いじゃんか」


「もういい、私帰る!」


 信弘の言葉に怒った真由美は背を向けて歩き出した。慌てた信弘は手を掴んで引き留めようとしたが、その手は振りほどかれ、真由美は早足で去って行ってしまった。残された信弘が呆然と立ち尽くしているところに会計を終えた浩輔と真白、そして郁雄と奈緒が現れた。


「あれっ、どうした信弘、真由美ちゃんは?」


 郁雄が声をかけると、信弘は泣きそうな顔で事の次第を話した。


「バカかお前は」


「うん、それは信弘が悪いね」


 口々に信弘を責める郁雄と浩輔。さすがに真白は黙っていたが、奈緒は容赦なく捲し立てた。


「あー、そりゃダメですよ、信弘先輩。女心ってモノをわかっちゃいませんねー。郁雄先輩の爪の垢でも煎じて飲んだ方が良いんじゃないですかぁ?」


 奈緒は郁雄が女心をわかっているとでも言いたいのだろうか? 信弘がリアクションに困っていると奈緒は嬉しそうに言い続けた。


「わかりますよ、真由美のセクシーな水着姿を見たいっていう気持ち。でもね、そこをグッと抑えるのが男ってものじゃないですか。郁雄先輩、言ってやって下さいよ、さっきの名台詞! 『俺の気持ちも考えてくれ。彼女のセクシーな姿を他の男に見られる彼氏の気持ちを』……ああ、私ってなんて罪な女……って、痛っ!」


 郁雄に叩かれて、やっと奈緒のマシンガントークが止まった。


「バカな事言ってる場合じゃねーだろ」


 郁雄の言う通り、そんな事を言ってる場合では無い。真由美が機嫌を損ねてしまった事で、最悪明日のプール行きが中止になってしまう可能性もあるのだから。


「でも、どうしたら良いのかしら?」


 真白が呟く様に言うと、信弘は暗い声で答えた。


「謝るしか無いよな……だが、どう謝ったら良いのか……」


 調子に乗って言った言葉が真由美を傷付けた。信弘は途方に暮れるばかりだった。信弘のバイブル『ナンパABC~Z これで君も彼女持ち。さらば寂しい日々よ』には彼女と気まずくなった時の事に関しては何も書かれていなかったのだろうか? 浩輔と郁雄も恋愛経験値が低い為、何も言えないでいる。


「もー、みんなしっかりして下さいよー。 昔から女の子の機嫌を取るにはプレゼントが一番だって決まってるじゃないですかー!」


 身も蓋もない事を奈緒が言い出した。だが、一理あると言えば一理ある。


「プレゼントったって、いったい何を?」


 信弘が言うと奈緒は目を閉じて首を横に振り、困った素振りで答えた。


「まったくこれだから女心がわからない男ってのは困るんですよねー。今日、私達は何をしに来たんですか?」


「水着を買いに……だろ?」


「イエス! そして、私と真白は水着を買いました。でも真由美は?」


「買ってない」


「もうわかりましたよね。じゃあ、今、真由美に必要な物は?」


「水着?」


「正解!」


 本当にそれが正解なのか? 不安を感じる信弘に、真白がアドバイスを加えた。


「今度は変な事考えないで、真由美ちゃんに似合うと思うのを選んであげて下さいね」


 信弘は真由美に似合う水着を求め、女性用の水着売り場を真剣な顔でうろついた。真由美の姿を思い浮かべ、歩いては水着を手に取って眺め、歩いては水着を手に取っては眺めを繰り返す彼の姿は、一歩間違えれば通報モノだったが、そんな事は気にしていられない。やがて信弘は一枚の水着を手に動きを止めた。


「決まったの?」


 浩輔の声に信弘は黙って頷いた。


「うん、コレなら良いかな。サイズは……大丈夫そうね」


 さすがは真白、デザインのみならず、サイズのチェックも怠り無い。


「サンキュー、真白ちゃん。じゃあ、金払ってくるよ」


 真由美の為に選んだ水着を手に歩き出した信弘だったが、数歩歩いたところで立ち止まり、振り返った。


「浩輔、悪いけど金貸してくれ! 明日絶対返すから!!」


 浩輔からお金を借り、会計を済ませた信弘だったが、大変な事に気が付いた。


「俺、真由美の家知らないや……」


 連絡を取ろうにも、怒っている真由美は信弘からの連絡を無視するかもしれない。溜め息を吐く信弘に、奈緒が無い胸を張って言った。


「大丈夫、私にまっかせなさい!」



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