第24話 もうすっかり彼女気取りですか、このヤロー
郁雄の突然の告白に奈緒の、いや、その場に居る全員の動きが止まった。それはそうだろう、告白なんて普通は二人っきりの時にするものだ。
「黙ってないで何か言ってくれよ。言ってるこっちは恥ずかしいんだからよ」
顔を赤くして言う郁雄だったが、奈緒は俯いたまま何も言わない。いや、何も言えないのだろう。なにしろ奈緒も顔を赤く、いや、郁雄以上に顔を真っ赤にしているのだから。
真白と真由美が見守る中、奈緒はゆっくりと顔を上げた。
「私、胸小っちゃいよ」
ちょっと拗ねた様な声。
「んな事わかってる」
郁雄の答え。いや、それは違うだろ。その場に居た誰もが思った。しかし、奈緒の反応は予想外のものだった。
「なーんてコト言うんですかー! それが彼女に言う言葉ですか? もー信じられませんねー。私、もう激おこですよ、げ・き・お・こ! さあ、ここで問題です。どうしたら許してもらえると思います?」
奈緒にいつものハイテンションなマシンガントークが戻った。怒った様な口ぶりだが、その目は嬉しさで潤んでいる。しかも自分で自分の事を『彼女』と称しているではないか。これはもう、郁雄の逆転勝利確定だ。
「わかったわかった。プール代は俺が出してやるよ」
郁雄が答えたが、奈緒のマシンガントークは止まらない。
「えーっ、それだけですかぁ? はい、ココで問題です。プールに行くのなら何が必要なんでしょうねー? まさか『スクール水着で』って言うんじゃ無いですよねー?」
まさか水着を要求しているのか? 一瞬たじろいだ郁雄に奈緒は不満そうに言った。
「そこ、突っ込むところじゃないですか! 『そんな高いモン買ってやれるか』って。まったくどうしちゃったんですか?」
どうしたもこうしたも無い、奈緒の変貌ぶりについていけないだけだ。
「まー無理もありませんねー。こんなにかわいい彼女が出来たんですからねー。嬉しくていつもの調子が出ないというわけですよねー。うんうん、わかります。わかりますともその気持ち!」
どう見ても一番喜んでるのは奈緒なのだが、誰もそれに突っ込めない。ココはもはや奈緒の独壇場だ。
「そうですねぇ、一介の高校生に彼女に水着を買ってあげられるほどの財力が無いのは当然の話です。私だってお小遣いがピンチなんてしょっちゅうですから」
絶好調の奈緒。もはや奈緒を止められるものはいない。誰もがそう思ったが、どういう訳か奈緒の言葉が一瞬途切れた。
一呼吸置いて、奈緒は俯き加減で恥じらった笑顔で言った。
「……でも、一緒に選ぶぐらいはしてくれますよね?」
「お……おう」
こんな顔でこんな事を言われて断る男など、この世に存在しないだろう。郁雄はただ、言葉少なく頷くしか無かった。
「とは言っても、日曜日に行くんでしょ、いつ買いにいくのよ?」
ちょっと良い雰囲気になった郁雄と奈緒を真由美の一言が現実に引き戻した。ちなみに今日は木曜日、日曜日まで今日を入れて三日しか無いのだ。
「去年の水着じゃダメなの?」
真白が言うが、奈緒は一歩も退かない。
「真白、何言ってんのよ! もう高校生なのよ、去年のって中学の時のヤツじゃない。そんなの着てられないわよ!」
どうやら奈緒は初めて出来た彼氏とプールに行くからには気合を入れなければという思いが強い様だ。
「胸の大きさは中学生レベルだけどな」
「うわっ、郁雄先輩、今それを言いますか、仮にも彼女となったばっかりの私が気にしてる事を、私の唯一のウィークポイントを!?」
郁雄のキツい突っ込みを受けて奈緒は不満そうに言うが、郁雄は更に辛辣な突っ込みをぶち込んだ。
「いや、ウィークポイントだらけだろ」
「ウィークポイントだらけ? ひっどーい! うわーーーーん」
あまりにも容赦の無い突っ込みに奈緒はまた泣き出してしまった。おろおろする郁雄に浩輔達の冷たい視線が突き刺さる。
「すまん、悪かったよ。じゃあ、明日帰りに見に行こうぜ」
「本当?」
「ああ。本当は今からとでも言いたいところだが、金も用意しなきゃならないだろ?」
「うん!」
一発で奈緒の機嫌が直った。さすがは郁雄、奈緒の扱いには慣れたものだ。
「お前等も一緒に来るんだよな?」
「うーん、遠慮しとこうかな」
郁雄が尋ねると、真由美がやんわりと断りを入れた。
「えっ、何でだよ?」
予想外の答えに驚いた顔の郁雄に真由美が呆れた声で言った。
「あなた達、今日から付き合うんでしょ? 初めてのデートの邪魔したら悪いもの」
真由美は二人を思いやって言ったのだが、郁雄は難しい顔になって言い返した。
「そんな事言って良いのか? コイツの事だ、どんな水着選ぶかわかったモンじゃ無いぞ」
確かに。奈緒の性格だと「もう高校生なんだから」と調子に乗って似合いもしないセクシーなビキニとか、「もう子供じゃ無いんだから」とか言ってフラットなボディをよりフラットに見せる白のワンピースとかを選びそうだ。
「……そうね、じゃあ、土曜日にみんなで行きましょうか。明日、学校終わってからじゃゆっくり見れないもんね」
真白の一言にみんなが揃って頷いた。一人何か言いたそうな奈緒を除いて。
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