第23話 郁雄、突然の告白!?

「今度の日曜、みんなでプール行こうぜ」


 誘ったのは当然言い出しっぺの信弘だ。出来る限り爽やかに、下心を見透かされない様に細心の注意をもって声をかけたのだが


「信弘先輩、またえっちな事考えてるでしょー」


 一瞬にして奈緒に看破されてしまった。


「おまっ、な、何言ってんだよ。エロい事なんてこれっぽっちも考えて無ぇよ」


 本人は冷静に取り繕おうとしているのだろうが、図星を突かれたものだから舌が全然回って無い。


「いや、その目がエロいです。って言うか、『エロい』なんて言葉が出てきた時点で信憑性なっしんぐ」


 奈緒の鋭い指摘に浩輔と郁雄は頭を抱えそうになったが、もしそんな事をすれば実際に『えっちな事』を考えていると認める様なものだ。なんとか思いとどまって、出来るだけにこやかに信弘をフォローするべく頑張った。


「奈緒、何を言ってるんだよ。夏なんだぜ。友達同士でプールぐらい行くだろ、ふつー」


 さすがは郁雄。奈緒が相手ならこの男に任せておけば間違い無い。


「でも……」


 奈緒はまだ何か言いたげだが、少し顔を赤らめてもじもじしている姿はいつものボーイッシュな奈緒とのギャップと相まって妙に可愛く見えた。それに郁雄の方が参ってしまった様だ。しかしそれでは話が進まない。真由美はジトっとした目で信弘を見ているし、真白は恥ずかしそうに俯いている。浩輔は何か気の利いた事を言いたかったが何も頭に浮かんでこない。

 そんな実に困った状況を打破せんが為に信弘が頑張った。


「プールぐらい学校でも入るだろ? その延長と思えば良いじゃないか」


 確かに夏はプールの授業がある。もちろんそれは男女混合で行うので、男子に水着姿を見られるぐらい何でも無い事じゃないかとでも信弘は言いたかったのだろう。しかしこれに奈緒が噛み付いた。


「そういう問題じゃ無いでしょ!」


 何故かムキになって声を上げた奈緒に一瞬たじろいだ郁雄だったが、奈緒の目が怒っているのでは無く、まだ恥ずかしそうな事に気付いた。郁雄は少し悩んだが、思い切って勝負に出た。


「そっか、じゃあしゃあない。俺達だけで行くか」


「えっ……?」


 予想外の郁雄の言葉に奈緒が小さな声を上げた。


「だってしょうがねぇだろ。お前等が俺達と行くのイヤだってんならよ」


 怒った口ぶりでは無い。あくまで「しょうがない」と言った感じを醸し出しながら郁雄が言った。郁雄の演技もなかなかのものでその効果は抜群だ。奈緒の態度がコロっと変わった。


「いや、別にイヤだとかそんなんじゃ無いんですよぉ。ただちょっと恥ずかしいかなーって」


 なんだかんだ言って奈緒もプールに行きたいのだろうか? もじもじした姿が何だかとても新鮮だ。郁雄はここぞとばかりに畳み掛けた。


「恥ずかしい? 何で? お前のドコに恥ずかしい要素があるって言うんだ?」


 郁雄の言葉に黙り込んでしまった奈緒。実は奈緒は胸にコンプレックスがあった。はっきり言って郁雄は、いや、浩輔も信弘もそれには薄々気付いていた。何しろ制服の上から診ても真由美や真白と比べて貧富の差が一目瞭然だからだ。さあ、ここが勝負所だ。


「お前は俺と居て恥ずかしいと思った事があるか?」


 信弘は完全なバカだし、郁雄も本質は彼に負けず劣らずのバカだ。浩輔は正直ズレたところはあるもののバカでは無い。と言う事はこの三人にまともなヤツは居ないと言う事になってしまうが、この年頃の男子なんてそんなものだろう。それはさて置き、奈緒は郁雄の質問に黙って首を横に振った。


「だろ? 俺だってお前と居て恥ずかしい事なんて無いぜ」


 嘘つけ。事ある毎に奈緒の行動に突っ込む役割を背負ってる(自ら買って出ている)くせに。しかし郁雄は平然と言い放った。そんな郁雄に奈緒の心は大きく揺れた。しかし続く彼の言葉に奈緒は大きく打ちのめされる事になるのだった。


「だからよ、胸が小さい事なんか気にする事なんて無ぇよ」


 言ってはならない事を郁雄は言ってしまった。奈緒の目に大粒の涙が滲んだかと思うとボロボロと零れ落ち、床を濡らした。いつもの奈緒の嘘泣きでは無い。マジ泣きだ。郁雄の出た勝負は失敗に終わった……いや、まだ終わっていない。とりあえず敗戦処理、泣いてしまった奈緒を何とかしなければ。


「うわっ、郁雄、お前どうすんだよ? 奈緒ちゃん、泣いちゃったじゃねぇか!」


 やはり信弘はバカだ。ここで騒ぎ立ててどうする!? 真由美と真白は奈緒の肩を抱く様に慰めているが、奈緒の涙は止まらない。それはそうだ。胸の小さい事を胸の大きい者に慰められても余計に悲しくなるだけだ。浩輔はおたおたするばかりで全く役に立ちそうに無い。郁雄は最後の勝負に出るべくおずおずと口を開いた。


「わ、悪かったよ奈緒。まさか泣いちまうとは思わなかったんだ」


 まずは素直に詫びを入れる。そして、勝負はここからだ。郁雄は生唾を飲み込むと驚くべき言葉を口にした。


「でもな、俺はそんなお前が好きなんだよ」


 このタイミングでまさかの告白。奈緒の涙が止まった。止まったのは奈緒の涙だけは無い、真白も真由美も突然の出来事に固まってしまっている。


「だからよ、泣かないでくれよ。奈緒には笑顔が一番似合うんだからよ」


 郁雄はこんなセリフをドコから仕入れてきたのだろう? やはりアレだろうか? 信弘のバイブル『ナンパABC~Z これで君も彼女持ち。さらば寂しい日々よ』を回し読みでもしたのだろうか? いや、違う。今の言葉は郁雄の偽らざる本心だった。




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