第20話 浩輔と真白、茜と遭遇!
日曜日、浩輔は真白とショッピングモールに買い物に来ていた。信弘が『ばったり出くわさない様にモールには来ないでくれ』などと言っていたが、信弘と真由美がデートする事が周知の事実となり、またショッピングモールは広く、映画の劇場は最上階にある。そうそう遭遇する事もあるまいという事で不問となったのだ。おそらく郁雄と奈緒もショッピングモールに来ている事は間違いなかろう。もちろん他にこれといって行く所が無いというのが一番の理由だ。
それにしても初めてのデートがショッピングモールとは、いかにも高校生らしく微笑ましいものだ。まあ、好きな相手と一緒ならショッピングモールだろうが、そこらへんのコンビニだろうが構わないのだろうが……って、それは男の都合の良い解釈でしか無い。女の子の「どこでも良い」とか「何でも良い」を信用すれば痛い目を見る事になるので気を付けなければならない。
女の子の買い物と言えばやはりファッションだ。大人しい真白もやっぱり女の子、店先に飾られた薄手のニットに手を伸ばした。
「浩輔先輩、これちょっと試着してみても構いませんか?」
可愛らしい仕草で言う真白。もちろんダメだなんて言う男が居るわけが無い。浩輔が頷くと真白は店員に声をかけ、試着室へと消えて行った。
一人残された浩輔は小さな溜息を吐いた。と言っても別に待つのが苦痛なわけでは無い。むしろ初めてのデートで緊張しっぱなしだったのが、一人になって緊張が緩んだのだ。少し落ち着いた浩輔が辺りを見回したところ、浩輔の目に色とりどりの女性用下着が飛び込んで来た。真白と二人で緊張していたので気付かなかったが、そこは以前みんなで来た『マネキンが下着姿で誘惑している店の隣の店』だったのだ。どうやら真白はこの店がお気に入りの様だ。いくら身に着けているのがマネキンだとは言え、女性用の下着を凝視するわけにもいかず、浩輔が目を逸らした時、突然浩輔の視界が奪われ、耳元で甘い声が聞こえた。
「だーれだ?」
聞き覚えのある声だ。と言うか、こんな事をするのは一人しかいない。
「稲葉さん?」
恐る恐る答える浩輔の耳に甘い声が聞こえ、香しい吐息が鼻をくすぐった。
「せいかーい」
浩輔の目を覆う手がどけられ、茜が笑顔で前に回り込んできた。
「何と言うか、間違えようが無い問題を飽きもせず出題するもんだね」
もったいないお化けが出そうな事を言う浩輔。これは問題などでは無い。茜のコミュニケーションなのだ。茜は一瞬顔を曇らせたが、浩輔はそれに気付かなかった。
「またこんなところで。君はよほど女性の下着に興味がある様だな」
茜は妖しく笑うと身に着けていた白いブラウスの胸のボタンに手をかけた。
「仕方が無い。こんな所ではこの程度しか出来ないが……」
言いながら茜はボタンを二つ外すと胸元が浩輔によく見える様に腰を屈めた。
「残念ながら今日のはあまり可愛くないのだ。こんな事になるのなら、浩輔がもっと喜ぶ様なのを着けて来たのに」
残念そうに言う茜の胸の谷間を作る薄い紫のブラジャーを、浩輔の目がロックオンしてしまったかの様に離れない。そこに試着を終えた真白が現れた。
「浩輔先輩お待たせしました……って、茜ちゃん?」
「真白?」
真白はとんでもないところを見てしまった、茜はとんでもないところを見られてしまったと言葉を詰まらせた。
「も……もしかしたら、浩輔と付き合っているのか?」
胸のボタンを留めながら伏し目がちに茜が重々しく口を開いた。茜がこんな動揺する姿は初めてだ。
「えっと……付き合ってるって言うか……これから……かな」
真白が小さな声で答えると茜は小さな溜息を吐き、顔を上げた。
「そうか、それはすまなかったな」
言うと茜はその場を立ち去った。浩輔にはその背中がいつも堂々としている茜とは別人の様に小さく見えた。
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