第14話 遊園地!!

 時は流れて日曜日、六人は電車に揺られること一時間半、遊園地の入場ゲートに居た。ゲートの奥に見える巨大な観覧車に気分は否が応でも盛り上がる。


「すっごーい! 遊園地なんて久し振り!」


「本当ね。私なんて小学生以来かも」


 はしゃぐ奈緒に真白が応えると、真由美が不思議そうな顔をする。


「えっ、中学の時、遠足で行かなかったっけ? って、ああ、真白は風邪ひいて休んだんだっけ」


 当時の事を思い出し、しみじみと言う真由美に真白が微笑んだ。


「うん。だから、今日はとっても楽しみ」


 楽しみなのは浩輔達も同じ。いや、間違い無く彼女達以上だ。彼等が練りに練ったプランは功を生じるのだろうか?


「何から行く?」


 信弘が尋ねた。いきなりお化け屋敷とか観覧車など下心が透けて見える様なアトラクションに走るのは愚の骨頂。まずは女の子のリクエストを聞いてからと言う訳だ。


「はいはい! 私、ジェットコースター乗りたい!」


 奈緒が勢いよく手を挙げて主張してきた。


「おっけー。ジェットコースターか……こっちだな」


 信弘は園内マップを見ながら歩き出した。


 ジェットコースターと言えば人気の乗り物なだけにそれなりの列が出来ている。だが、ここのジェットコースターは二人が並んで座るタイプで、ループも無ければコークスクリューも無いオーソドックスなものだ。しかし女の子と一緒に乗るのだから浩輔達のテンションは必然的に高くなってしまう。それをできるだけ見せない様に信弘は平静を装っている。


「おっ、いよいよ俺等の番だな」


 並ぶこと十数分、係員にプラットホームに誘導される六人。もちろん奈緒は郁雄と、真由美は信弘と、そして真白は浩輔と並んで座る様にホームに立つ。


「いやー、楽しみですねー。ジェットコースターなんて久し振りですからねー」


 奈緒が例によって高いテンションで郁雄に話かける。


「そうだな、俺もガキの頃以来だな」


 珍しく突っ込み所の無い会話に安心した様に応える郁雄は紳士らしく奈緒を先に座らせると自分も続いて乗り込み、安全バーを手前に引いた。頭上から降りてくる安全バーなどと言う上等なものでは無い、手摺りみたいなメッキの鉄の棒が床から生えているアレだ。いかにこのジェットコースターがショボい、いや、平和なものかが想像出来るだろう。


 楽しそうに話している信弘と真由美、郁雄は嬉しそうに景色をキョロキョロ、奈緒は黙ってまっすぐに空を見つめている。浩輔がチラリと横を見ると、怖いのだろうか安全バーを握り締めて俯いている真白の姿が見えた。三者三様の彼等を乗せたジェットコースターはどんどん高度を上げていき、最高地点に達するとゆっくり水平に、そして下にと向きを変え、重力に引かれて加速を始めた。


「きゃあぁぁぁぁ」


 さほどスピードも出てないというのに真白が悲鳴を上げた。


「いやっほおぉぉぉぉぉ!!」


 ほぼ同時に奈緒の雄叫びが聞こえた。それからというもの、右に曲がる度に「きゃあぁぁぁぁ」「いよっしゃ、いっけぇぇぇ」左に曲がる度に「きゃあぁぁぁぁぁ」「うぉら、そっこだあっ」と真白の悲鳴と真由美の雄叫びがサラウンド。浩輔は真白の怖がりっぷりに心配になり、郁雄は雄叫びを上げまくる奈緒に突っ込む気力も失せ、呆然と見守るしか無く、信弘と真由美はただただ楽しそうに笑っていた。


「ごめんなさい、あんまり慣れてないものだから……」


「ううん、大丈夫だよ。誰だって苦手なものはあるから」


 ジェットコースターを降り、ふらつきながら謝る真白をハンカチであおぎながら浩輔が慰める。その横では未だ興奮冷めやらぬ奈緒が郁雄にボケをかましまくっている。さすがの郁雄もマシンガンの様なボケにお腹いっぱいかと思ったが、奈緒と同様に興奮冷めやらぬ郁雄はガトリングガンの如き突っ込みで対応している。


「お似合いの二人だよな」


 信弘が真由美の肩に手をやって言うと真由美は意味深な顔で笑った。


「『俺達も負けてられないな』とでも言いたいのかしら?」


「ふっ、まあそんなトコかな」


 真由美の予想外の反応に精々格好をつけたつもりの信弘だったが、彼女の目にそれがどう映ったかは定かでは無い。


「さて、次は何にするかな?」


 信弘が言ったものの、ここは何とかランドとか何たらスタジオとは違う昔ながらの遊園地、乗り物に乗るにはチケットを買わなければならない。もちろんその分だけ入場料は安いのだが、調子に乗って乗り物に乗りまくると結構な金額が飛んでいく。対費用効果を良く考えて慎重に行動しなければならない。かと言って女の子にセコいところは見せられない。その辺のさじ加減が実に難しいのだ。



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