第13話 次のステージに進みたい!

 浩輔達が真白達と出会い、一緒に遊ぶ様になって一ヶ月程経った頃、信弘が言いだした。


「そろそろ次の段階に進んでも良いんじゃないか?」


「次の段階?」


 郁雄が不審そうな目で聞き返すと信弘は真剣な態度を演出しているつもりなのか腕組みをしながら低い声で言った。


「ああ。俺達、いつも六人で行動してるじゃないか」


「いわゆるグループ交際ってヤツだな」


 郁雄の吐いた言葉に信弘の眉間に皺が寄り、目が鋭くなった。


「俺達が目指してるのはそんな健全なモノなのか?」


 言い終わると彼の目の鋭さが怪しさに変わり、えらい事を言い出した。


「もうちょっと不健全にいきたくないか?」


『不健全』! 信弘はいったい何を求めているのだろう? 信弘も年頃の男子、やはり頭の中はえっちな事でいっぱいなのだろうか? 唖然とする郁雄と浩輔に信弘は『彼女を作る』という最終目標に到達する為のプロセスの第二段階への進行、つまりグループ交際から一対一での行動へと移行する時が来たのだと力説した。


「でも、いきなり二人でなんてハードル高く無いかな?」


 浩輔が不安そうに言うと信弘はそんな事は百も承知とばかりに不敵な笑みを浮かべた。


「もちろん段階を踏む必要はある。で、俺が考えた作戦ってのはだ……」


 信弘が意気揚々と話し出した作戦はと言うと


 いつも通り六人で遊びに行く。

     ↓

 自然な流れで二人ずつに別れる

     ↓

 なんとなく良い雰囲気に持っていく


 というモノだった。こんなのが作戦と言える訳が無い。何だよ『自然な流れ』って。それに何と言っても最終段階の『良い雰囲気に持っていく』のが実に難しい。と言うか、それが出来ないから彼女いない歴=年齢なのだ。浩輔がそれを不安気に指摘するが、信弘は耳を貸そうとしない。


「大丈夫、なんとかなるって。それより問題はどこに遊びに行くかだ」


「そうだな、モールばっかじゃ芸が無いもんな」


 お気楽な信弘の言葉に郁雄が大きく頷いた。確かにこの約一ヶ月、真白達と一緒に遊んではいるが、行き先はと言えばファストフードやショッピングモールばかり。モールは正しくはショッピングモールと言うだけあって沢山の店が入っており、ぶらぶらするだけでもまあまあ楽しかったし買い物でもしない限り大してお金を使わなくても済んでいたのだが、さすがにこうしょっちゅう行っていると飽きてくる。と言うか、自分達が飽きなくても真白達に「モールしか行かないモールバカ」と愛想をつかされてしまうかもしれない。それだけは避けなければならない。

 もうすぐ夏が来る、今年の夏は彼女連れで海やプールに行くんだ! と言う野望を胸に話し合いは続き、勝負をかけるべく遊園地に誘うと言う結論に至った。


          *


「次の日曜日はみんなで遊園地にでも行かないか?」


 いつものショッピングモールのフードコートで信弘がアイスコーヒーを啜りながら誘った。さり気無さを気取ってはいるが、もちろん心の中では決死の覚悟。心臓が口から飛び出しそうだ。


「遊園地?」


「ああ。いっつも近場ばかりだからな。たまには遠くまで出かけようぜ」


 言われるより先に自分から近場でしか遊んでいないと気にしている事をアピールする様に言う信弘。どうやらそれは正解だった様で真由美は信弘が恐れていた事を言い出した。


「そうね、遊びに行くって言ったらモールばっかりだったもんね。たまにはどこか変わった所に行かないとね」


 ――うわぁ、やっぱそう思われてたんだ。危ねぇ危ねぇ……――


 真由美の答えに信弘はぞっとした。すると奈緒が追い討ちをかける様に言った。


「まったく、いっつもいっつもモールばっかり。まあ、高校生ですからしょうがないっちゃぁしょうがないんですけど、たまにはパーっといかないと『モールしか行かないモールバカ』って言われちゃいますよぉ」


 この言葉は浩輔達の心にキツく効いた。下を向いて黙り込んでしまった浩輔達だったが、奈緒は自分の発した言葉の罪深さに気付かず郁雄に不満そうに言った。


「郁雄先輩、どうしたんですか? ココ、突っ込むトコロじゃないですか! もう、しっかりして下さいよー」


 精神的なダメージは負ったものの、なんとか遊園地に誘う事には成功した浩輔達。はたして彼等は女の子を上手くエスコート出来るのだろうか? まあ、なるようにしかならないだろうが。



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