第7話 そして奇跡は起こった
傷心の浩輔達に事件は突然起こった。ある日の朝、登校してきた信弘は校門手前で目を疑った。見覚えのある女の子がこっちに向かって歩いてくるのだ。それは東高の制服に身を包んだユリだった。考える前に身体が動いた。
「あっ! もしかしてユリちゃんじゃない?」
『大丈夫さ……多分』などと言っていたくせに、信弘は彼女の顔も名前もしっかり覚えていたのだ。
「あっちゃ~、見つかっちゃった」
いきなり声をかけられたユリはバツの悪そうな顔になった。それはそうだろう。『日の出女子の二年』だと言っていたユリが東高の制服を着て登校しようとしているのだから。
「ユリちゃん、何で東高に? 日の出女子って言って無かったっけ?」
バカかコイツは。そんなもの、理由は一つしかないだろうが。まさか彼女が自分と同じ学校に通う為に転校したとでも? そんなだから信弘は彼女いない歴=年齢なのだ。信弘の間抜けな質問にユリは悪びれもせず答えた。
「私、初対面の男に素性を明かす様な軽い女じゃ無いから」
「じゃあ、ユリって名前も?」
意表を突かれた信弘が震える声で尋ねるとユリはあっさり答えた。
「うん。もちろん嘘」
ユリ(偽名)に一杯食わされた。唖然とする信弘だったが、彼女の口から意外な言葉が出た。
「でも、覚えててくれたんだ。ちょっと嬉しいな」
はにかんだ顔でカバンからノートを取り出し、シャーペンでさらさらと何か書き出すとそれを破って信弘に渡したのだ。
「約束ですもんね。私、一年二組の近藤真由美って言います。はい、コレ私のメアド。よろしくね、信弘先輩!」
「おっ、嬉しいねぇ。俺の名前、覚えてくれてたんだ」
彼女も自分の事を覚えていてくれた。これは信弘にとってメールアドレスゲットに加えて二重の喜びだった。だがしかし真由美の返答はそっけなかった。
「そりゃ、学校の先輩ですもの」
「それだけ?」
「今のところは」
『信弘さんの事が忘れられなくって』という言葉を期待した信弘だったが、その期待はあっさり裏切られた。だが、信弘はあくまでも前向きな姿勢を崩さない。
「ってコトは、この先どうなるかわからないって訳だよな」
「そうですね。良い方にも悪い方にもね」
少なくとも現時点では真由美は信弘に悪い印象は持っていない様だ。となると勝負はこれから、そう、信弘はなんとかスタートラインには立てたという事だ。
「おっけー、なら良い方にしてみせるぜ。じゃあ、早速だが……」
信弘はそう言うと、ポケットからスマホを取り出し、弄り出した。すると、真由美のスマホのメール着信音が鳴った。真由美はそのメールを確認し、にっこり笑って言った。
「わかりました。みんなと相談してみますね」
ちなみに真由美に送られたメールには、こう書いてあった。
『これからよろしく。土曜日の放課後カラオケ行こうよ 信弘』
*
教室に入るなり、信弘は浩輔と郁雄の顔を見ると、おはようの挨拶もそこそこに騒ぎ立てた。
「おいっ、大変だ!」
「ああ、おはよう信弘」
浩輔は普通に朝の挨拶をしたが、郁雄は慌てふためく信弘に呆れた顔で面倒臭そうに言った。
「どうした? 朝っぱらから。隣の家の猫が子供でも産んだか?」
「昭和の落語かよ……ってバカ野郎、そんな事言ってる場合じゃ無ぇぞ」
いきなりボケをぶっ込んできた郁雄に信弘はノリ突っ込みを入れながらも大ニュースを発表した。
「居たんだよ」
「誰が? ……って、まさかユリちゃん?」
「おう、実はさっき校門のトコでな……」
信じられないといった顔の浩輔と郁雄に信弘はひとつひとつ説明した。彼女達が偽名を使っていた事、日の出女子では無く東高の一年だという事、そして見事メールアドレスをゲットし、カラオケに行こうと誘った事……
「信弘、グッジョブ! よくやった!!」
「凄いよ~、信弘」
信弘を称賛する郁雄と浩輔だが、大事なのはこれからだ。だが、今出来る事は真由美からの連絡を待つ事のみ。全ては信弘の誘いを香澄(偽名)と智香(偽名)が賛同してくれるかどうかにかかっているのだから。
すると、信弘のスマホにメールが入った。震えながらスマホを取り出す信弘。それを固唾を飲んで見守る浩輔と郁雄。
数秒後、信弘の顔に満面の笑みが広がった。
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