第6話 小粋なジョーク? いや、それは寒いギャグだ

 浩輔達はナンパした女の子達と共にフードコートへ向かう……と思いきや、チェーンのコーヒーショップに入った。浩輔が不思議そうな顔で口を開いた。


「信弘、フードコート行くんじゃ無かったの?」


「おいおい、女の子連れてフードコートなんか行く訳無いだろ」


「でも、さっきフードコートって……」


「ありゃ小粋なジョークだよ」


 得意げに言う信弘に女の子から鋭い言葉が飛んだ。


「でしょうね。もし、本当にフードコートなんか行ってたら帰ってたわよ」


「今のは小粋なジョークと言うより寒いギャグだったよね」


 その一言に浩輔が笑い出し、その笑いが女の子達に広がった。それを見て『ココは笑う所だ』と空気を読み、信弘も笑うしか無い。


「でも、その寒いギャグのおかげでこうしてみんなが笑ってる訳だ。これで打ち解けられただろ?」


 寒いギャグを滑らせて打ち解けさせる。コレも本で得た知識なのだろうか? いや、本来は『小粋なジョーク』とやらで笑いを取って打ち解け合う計画だったのだが、まあ結果オーライだ。


「まずは自己紹介からだ。俺、前田信弘。東高の二年。ヨロシク」


「あ、俺、林郁雄。同じく東高の二年」


「堀池浩輔です。ボクも東高の二年です」


 一人だけ丁寧な口調、しかも美少年。浩輔に注目が集まるのは仕方の無い事だろう。


「北野ユリ。私達、日の出女子の二年よ」


「大西香澄。よろしくね」


「明智智香です。みんな同じ学年ですね」


 とりあえずの自己紹介が終わった。これからどれだけ女の子の情報を引き出して、話を盛り上げるかが本当の勝負、腕の見せ所なのだが、はたして浩輔達にそんなスキルが有るのだろうか?


 まずは信弘が口火を切った。


「へえ~、タメなんだ。偶然だね。ユリちゃん、いつもはどんな事して遊んでるの?」


『ユリちゃん』とは、信弘が目を付け、声をかけた女の子だ。


「う~ん、カラオケとかショッピングかな~」


「へえ~カラオケかぁ、ユリちゃんはどんな歌、歌うの?」


「色々だよ。最近はトトコとかアルティメットとか……」


 ユリの口から出たのは幸いな事に信弘も知っているミュージシャンだった。それを良い事に信弘は話を膨らませようと必死になって食い付く。もちろん上辺だけは平静を保ったままで。


「トトコ、俺も聴いてるよ。良いよね~、ユリちゃんの歌うフェイクオフファイト、聴いてみたいなぁ」


『フェイクオフファイト』とはトトコの初期の曲で、この曲を出した事で古いトトコのファンだとアピールしつつ『聴いてみたい』とカラオケに誘う布石を打つと言う信弘の作戦だ。これに郁雄が乗っかった。


「そうだ、みんなでカラオケ行こうか?」


 だが、すぐにオッケーが出る程女の子は甘く無い。


「うーん、恥ずかしいなぁ……どうしようかな?」


 焦らすそぶりのユリ。すると郁雄が畳み掛ける様に二の矢を打った。


「香澄ちゃんはどんな歌、歌うんだ?」


「私? 私はアイドル系が多いかな。NPBとか」


「じゃあ、振り付けなんかもバッチリ決めるんだよな。そいつは見てみたいな」


 乗せる様に言う郁雄。浩輔も頑張って会話に加わろうとする。


「大西さんは? どんな歌を歌うのかな?」


 智香を『大西さん』と呼んだ浩輔。せっかく郁雄と信弘が距離を詰めるべく下の名前で呼んでいるというのにそれを理解してないのか、それとも下の名前で呼ぶ根性が無かったのか…… 


 智香は小さな声で答えた。


「私は……静かな歌しか歌えないかな」


 自分だけ名前で無く苗字で呼ばれたからなのか、それとも彼女が元来おとなしい女の子だからかは解らないが、ついさっきまでノリノリで会話していたのが少しテンションダウンしてしまった。これを挽回するべく頑張る信弘だったが一度下がってしまったテンションを上げるのは容易な事では無い。


 結局カラオケに行く話は流れてしまい、その日はお茶だけで解散する事になってしまった。帰り際に信弘が最後の頑張り、スマホを取り出して一言。


「あ、良かったらメアド教えてよ」


 だが返ってきたユリの答えは残念なモノだった。


「また会えたらね。それで、私の顔と名前、ちゃんと覚えてたら教えてあげる」


 ユリはまたもや焦らす様な、もったいを付ける様な事を言うが、信弘はめげる事無く平静を装って尋ねた。


「ココにはよく来るのかい?」


「ええ。次はいつ来るかわからないけどね」


 悪戯っぽく笑うユリに信弘はニヤリと笑い返し、一旦は引き下がる事にした。


「わかった。絶対だぜ」


「もちろんよ。じゃあ、私達行くわね。ごちそうさま」


 ユリに続いて香澄と智香も席を立った。


「ありがとう、まあまあ楽しかったわよ」


「ごちそうさまでした」


 去っていく三人を見送り、三人は緊急の会議を行った。もちろん議題は今後の展開について。まずは郁雄が口を開いた。


「おい、次会ったらって、どうすんだよ? 次って、いつなんだよ?」


 約束の無い『次』はいつ来るのか。来週か? 再来週か? 郁雄が吠える様に言うと信弘はストローを咥えながら憮然として答えた。


「知らねぇよ。まあ、とりあえずはしばらくモールに通うしか無いだろ」


 すると浩輔が不安そうに信弘に尋ねた。


「信弘、ちゃんと顔、覚えてられるの?」


「大丈夫さ……多分」


「頼り無ぇなぁ」


 力なく答える信弘をジト目で見ながら呟く郁雄。って、この二人、自分達はちゃんと彼女達の顔と名前を覚えてられるんだろうな? 信弘はアイスコーヒーを一気に喉に流し込むと息を吐くと力強く言った。


「でも、何とかするしかあるめぇよ」


 もちろん翌週の日曜日、勇んでショッピングモールに出撃した浩輔達だったが、ユリ達に出会う事は出来なかったのは言うまでも無い。




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