天使降臨


 深い森を駆け抜ける旦那。


 リョコウバトはその後ろを何とかついていく。


「覚悟ッ!!」


「!?」


 突然の斬撃。


 旦那は横に飛び、避ける。


「あっぶね!?」


「避けられたか、運の良い奴」


 白く、神々しい存在が、天空から舞い降りてくる。


 その手には片手剣が握られていた。


「誰だテメェ」


「私がそう簡単に階級を明かすとでも? 悪魔の成り損ない如きに?」


 目の前の存在は、明らかに天使だと分かる。


 天使には階級があり、上位になるほどその力は強力になる。


「ならボコして聞き糺すまでだ。この力がどこまでの奴に通用するのか知りてぇからな」


 旦那は構える。


 目の前の天使は、なぜ煉獄に存在し、なぜ旦那を狙うのかは不明だ。


 しかし、敵なのは明らかだ。


 敵であるなら、ためらう理由は存在しない。


 戦って勝つ。


 今の旦那の目に、戦う闘志に満ち溢れていた。


「やはりな」


「あ?」


 天使はため息を漏らす。


 失望ではない。


 全く自分の予想通り。


 愚かな人間の愚かな醜態を、ただただ見せられる――


 予想はしてても、見るに堪えない。


 それが、ため息の理由だった。


「悪魔の血を貰った者は好戦的になり、人格が悪人へと変化する。己が内に湧き上がる破壊衝動に耐えられず、暴れ回る。そして――」


 天使は旦那に剣先を向ける。


「最終的には我ら天使に狩られ、無に帰る。それが天の定め」


 剣を向けたまま、一歩ずつ近づいてくる。


 ゆっくりと、旦那を焦らすように。


「どうやら君は、悪魔化が早いらしい」


「……あ?」


 突然の指摘に、旦那は首をかしげる。


「悪魔になるのは個人差があって、その中で君の体は特に早いという事さ」


「それがどうした?」


「心が弱いが故、邪悪に染まりやすいのだろう。悪魔なんかの甘言に踊らされ、悪魔と同化し、精神も肉体も譲り渡す――君は人間の塵屑に等しい」


 さらに言葉を続ける。


「悪魔に従えば、強くなれると? 楽になると? 愚か者め。君は自ら、我らの主の元を去った。

 故に、君は二度と、太陽の光に照らされることは無い。

 無に帰った先の、永劫の闇の中で一人、己の罪を悔やみ続けること、それが悪魔への罰さ」


「――」


 天使の言葉に対して、旦那はたったの一言だけ、言い放つ。


「あっそ」


 旦那は、悪魔の力を解き放つ。


 全力の踏み込みで、目の前の天使に近づかんとする。


 剣を持つ相手に近づくのは自殺行為。


 故に、これはフェイント。


 足の速さで、天使を翻弄する作戦だ。


 そして天使の剣が空振りした隙に間合いを詰め、拳を叩きつける。


――さっさと終わらせる


「うりゃああああああ!!!!」


「――処分」


 そして旦那は踏み出した。


 否、踏み出そうとした。


 踏み出そうとした瞬間に、旦那の胸にぽっかりと穴が空いた。


「な――?」


 何が起こったのか、旦那には分からなかった。


 間合いは離れていた。


 天使の剣など届くはずがない。


「が――」


 しかし、旦那の心臓は跡形も無く消滅していた。


***


「あ――」


 なんとか旦那に追いついたリョコウバトが目にしたのは、天使のその圧倒的な力だった。


 天使は、指先からビームを撃って、旦那の胸に穴を空けたのである。


 剣は相手を惑わす飾りで、本命は今使ったビーム攻撃だった。


 戦い慣れてない旦那には、圧倒的に分の悪い戦い方であった。


「あなたぁああああ!!!」


 リョコウバトは、空の上からただ叫ぶことしか出来なかった。


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