悪魔の血

「お〜い、早く起きなよ〜。お休みの時間はお終いだよ〜?」


 声が聞こえる。


 旦那は徐々に意識が鮮明になる。


 声の主はアスモデウス。


 そう認識した途端、旦那は閉じてた目を開いた。


「う、うぅん……」


「あなた! 起きて!」


 目に涙を浮かべたリョコウバトが、視界に飛び込んだ。


「見える……リョコウバトさん……」


「あなた!」


 地面に寝ていた旦那の服は、泥に汚れていた。


 にもかかわらず、リョコウバトはその体を抱きしめた。


 旦那は久々に、生きた心地というものを噛みしめていた。


「あらあら、良かったね〜。じゃあ、私はこれまでで。じゃあね〜。」


 横で見ていたアスモデウスは、颯真の元へ走って行こうとした。


「待って!」


 リョコウバトの一言で呼び止められ、振り返る。


「ん〜?」


「ありがとうございます」


 リョコウバトはそう言って深々と頭を下げた。


「まっ、君達が初めて私を殴った人達だからね〜。生かしておいて特に損は無いと思っただけさ〜。それと…」


 まるで親切なアドバイスを与える、部活の先輩のような態度だった。


「私達悪魔の血は特殊でね……その血を取り込んだ旦那は、非常に悪魔になりやすい体質になったのさ〜」


 リョコウバトは息を呑む。


「じゃあ、いま、旦那は……?」


「悪魔と人間の中間――あるいは、人間の姿をした悪魔ってとこかな」


 すでに旦那が人間でない事実に、リョコウバトは絶句する。


「あと、中身が変わったりするかも! ……まあそこを含めて君の旦那を愛してあげなよ〜?」


「それはどういう――」


「あ、私もやる事あるからまたね〜」


 アスモデウスはそう言って森の中に消えた。


 そして、すぐにリョコウバトは旦那に尋ねた。


「あなた大丈夫……?」


「あぁ大丈夫……俺の事は良いから、早くあいつの所へ」


 旦那の雰囲気が少し変わっていることに、リョコウバトは気が付く。


「さっきは、飛び出して悪かった……お前に心配かけちまったな」


「いいんですわ。あなたが無事ならそれで――」


 旦那は、起き上がり、両足で立った。


 足取りはふらついていない。


 すぐにでも走れそうな様子だ。


「行くぞ。リョコウバト」


 これまで旦那が見せたことのなかった、少し不遜な態度だった。


「えぇ」


 悪魔の血の影響を、リョコウバトはひしひしと感じるのであった。


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