VSシーサーバル


「凄まじい戦いですわね」


 リョコウバトと旦那は、少し離れた木々の影にて、戦いを見守っていた。


 颯真とシーサーバル。


 両者の戦いに巻き込まれないように、夫婦は何とかやり過ごすほかなかった。


「大丈夫、あなたのことは何が何でもお守りしますわ!」


 リョコウバトは胸を張って旦那に言う。


「ああ、ありがとう」


 リョコウバトの言葉に感謝を述べる。


 が、旦那は、居心地の悪さを感じずにはいられなかった。


(……分かってる。あんな戦いについてこれるはずがない。私はリョコウバトさんと逃げることだけ考えればそれで……)


***


 颯真はビースト化した守護けもの二体に悪戦苦闘していた。


「グァァァァッ!!」


 ライト、レフティの攻撃は止むことがない。


 獣の鋭利な爪で、何度も何度も颯真を切り刻まんと振るわれる。


 どか、ばき、ぐしゃ


 木々が次々と倒され、宙に飛んでいく。


 シーサーバルが爪で薙いだ先に存在していた、あらゆる植物や土や虫けらは破壊され、粉々になった。


 暴風雨の如き、破壊。


 それでいてなお、颯真は何とか致命傷を避け続けた。


 颯真はぎりぎりのところで見切り、体を反らし続ける。


 颯真はあらゆる圧倒的な攻撃の嵐を前に、常人離れの体捌きで避けては、攻撃するスキを見極めようとしていた。


「あっぶな!」


 颯真は寸手の所でバク転をし、回避する!


「ギシャァァァァッ!!」


 颯真が体勢を崩したタイミングで、ライトが奇襲攻撃を仕掛けた。


 颯真の喉元に噛みつこうと、大口を開けてとびかかった。


 颯真は左手で受ける構えをとる。


ガチャン!


「!?」


 歯と金属がぶつかる音。


 ライトが噛みついたのは、颯真が左手に持っていたテーザーガンだった。


「一発目」


 颯真は右手のテーザーガンをライトに向け発砲する。


 バン!!


 右手から放たれた弾は、ライトの右前腕部に直撃する。


 ライトは痛みの余り、受け身を取らずに倒れた。


「グァァァァッ!!アァァッ!」


***


「颯真さんうまい! あえて相手にスキを見せて、攻撃するように誘ったのですわ!」


 リョコウバトはなぜか解説を始めた。


「リョコウバトさん、ノリノリだね……」


 まるでバトル漫画だ、とは、あえて旦那は口にしなかった。


***


「クソッ!使いたくなかったのに…!」


 テーザーガンとは、中距離から相手を麻痺させる為の物であり、殺傷能力は無い。


 しかし颯真の心の内では、他者を傷つける手段そのものを嫌悪していた。


「颯真さん! 戦いは終わってませんわ!」


 颯真の躊躇いをリョコウバトは感じ取り、発破をかけた。


「分かってる!」


 一時的にライトの動きは封じても、レフティがまだ残っている。


 颯真はリョコウバトに大声で返事した後、「今はこれしか無い」と自分に言い聞かせた。


「!? あなた!」


「こっ、これって!?」


 突然の異常に対して、真っ先に気づいたのは、リョコウバト夫婦だった。


 なんと颯真たちを囲うように、ファージセルリアンが湧いていたのだ。


「戦ってるってときに――」


 逃げ道は無く、目の前にはシーサーバル。


 撤退は不可能だった。


「映像で見たファージセルリアンと同じか」


 ビースト化した二人も、大量のファージセルリアンを前に動くことが出来ないでいた。


 颯真はセルリアン達をまじまじと見つめた。


「フワンフワンフワンフワン」


 ファージセルリアンは、機械的な音声を話し始めた。


 リョコウバトと旦那は首をかしげる。


 言語として理解できるものではなかったからだ。


 その音声に必死に耳を傾けていたのは、颯真だった。


「助けを求めている……?」


 颯真は突然、そう口に出した。


 すると、ファージセルリアンの一体が彼の前に出て、他のファージセルリアンはビースト化した守護けもの二体を取り押さえた。


「!? なんだ!」


――安心して下さい


――獣たちは、私達が無力化させました


「喋った?!」


 旦那はファージセルリアンが日本語を話したことに驚き、声を上げる。


「まさかファージセルリアンから日本語が発せられるなんて、、、。」


 颯真も想定外といった様子だった。


――人間やフレンズ、そして貴方が伝達手段として用いてる【日本語】を、私たちは学びました


――私達はずっと待っていました……貴方の様な力を持った者を


――貴方が持つ、【分かり合える力】を


――私達の元に、来て頂きたいのです


――私達の住処…あなた達の言葉でいう【煉獄の塔】へ


 ファージセルリアンは颯真に対して、明らかに紳士的な態度で交渉していた。


「……今は無理だ」


 がしかし、ファージセルリアンの誘いを颯真は断った。


「守護けものがビースト化している。このままじゃ、二人が危ない」


 それが颯真の出した結論だった。


――貴方になら分かる筈です


――私達が危機に瀕している事を


「……でもダメだ。俺は目の前の命を見捨てる訳には行かない……お前たちはこの後だ」


 ファージセルリアンは数秒の沈黙ののち、言葉を発した。


――後10分までにあの獣を救ってみせて下さい


――でなければあの二人は白セルリアンとなり、私達の繁栄の為の礎となってもらいます


――良いですね?


「勿論だ」


――私達は一時的に撤退します


 そう言い残した後、すぐにファージセルリアン達は一斉にこの場をさる。


 そして、これまで押さえつけられていた守護けもの達が起き上がった。


「ヴヴヴヴヴヴ」


「ガルルルルル」


 シーサーバルは、颯真に唸り声を上げる。


「シーサーバル、お前達なら乗り越えられる! ビースト化なんかに負けるんじゃない!」


 暴走するシーサーバルに対し、颯真は活を入れた。


***


 結論を言えば、暴走したシーサーバル達は颯真によって、止められた。


 シーサーバル達は颯真達との戦いによって、意識を取り戻していた。


「ユニオンフレンズ・タンク――アサルトレイダー」


 戦車に、航空機の羽がつけられたような姿形をしているそれは、颯真とその仲間たち、エミカとセリアンが合体し、誕生した。


 シーサーバルを救った、颯真達の新たな姿だった。


「これは俺たちの絆の結晶で創り出された、新たな力だ!」


「あの、颯真?」


 エミカが話しかける。


「なんだ?」


「合体解除して良いかな?」


「良いぞ?」


 その言葉を聞いたエミカとセリアンは合体を解除する。


「合体解除!」


「フッ!!」


 アサルトレイダーから、颯真と二人の人物に分裂した。


「痛たた…これは慣れが必要だね。」


「そうだな。私も疲れた」


 エミカとセリアンは、颯真の助けに応えて、煉獄にまで駆けつけてくれた仲間であった。


「……二人ともおかえり」


 颯真は大事な仲間たちに言葉をかける。


「ただいま〜」


「あぁ。ただいま」


 そう言って二人は疲れ顔で、颯真の胸の中に文字通り吸い込まれて、戻っていった。


 エミカとセリアンが消えて、この場に立っているのは颯真ただ一人。


 この場にいたすべての者は、全く理解が追い付かなかった。


「エミカとセリアンだ。エミカは、エゾオオカミのフレンズで、セリアンはセルリアンだ。

 二人とも危害を加えなければ無害だ。宜しくな」


赤サーバル「そう……」


青サーバル「…なんだね」


旦那「全くよく分からないけど……」


リョコウバト「すごいですわね!」


 ファージセルリアンしかり、突然のビースト化しかり、謎は尽きないけれど。


 果たして次はどんな事が待ち構えて居るのだろうか。


 次回へ続く!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る