旦那とフェネック

 リョコウバトは颯真に攻撃を仕掛ける。


「手羽先ちょーーーッぷ!」


 颯真がバク転でよけるが、その先にアライグマとフェネックが回り込んでいた。


「喰らうのだ!」


「あらよっと」


 颯真を挟み撃ちするように、同時に攻撃する。


 しかし、颯真は軽々と見切ってよける。


「あれ!? よけられたのだ??」


 その瞬間、アライグマとフェネックは颯真の平手によって押し飛ばされた。


 そのスキをついて、サーバルが上空から颯真にとびかかった。


「うみゃああああ!」


 が、颯真はすでに予見しており、サーバルの手を掴み、投げ飛ばす。


「危ない! リョコウバトさん!」


 戦いを見てた旦那は叫ぶ。


 投げ飛ばされたサーバルの先にはリョコウバトがいた。


「分かってますわ!」


 リョコウバトはサーバルを何とか受け止める。


 ここで、戦ってる颯真たちに号令がかかった。


「「そこまで!」」


 シーサーバルのライトとレフティが同時に叫ぶ。


「颯真の勝利ぃ!」


「サーバルたちはまだまだ連携不足だね!」


 ここはシーサーバル道場。


 颯真とリョコウバト夫婦は、ミライのチームと組むことになった。


 そのため、お互いの連携し合えるように、特訓していたのだった。


「リョコウバトさんは無事!? というかみんなケガは大丈夫??」


「全く無傷だよ」


「へっちゃらなのだ! 怪我なんてしないのだ!」


 旦那の心配に、サーバルとアライグマはピンピンと答える。


「このバリア、すごいですわね!」


 フレンズの周囲には、薄い膜で覆われていた。


「探検隊のフレンズはこのバリアを使うことによって、安全に【ちからくらべ】してるんですよ」


 ミライは旦那にそう説明した。


「ならよかった……」


 なんかすごい技術だと思いつつ、旦那は受け入れた。


「はい、水筒」


 旦那はリョコウバトに水の入った水筒を手渡す。


「ありがとうございますわ!」


「みんなの分も水あるよ」


 旦那は戦いに参加したフレンズたちに呼びかけて、それぞれに水筒を手渡す。


「ま、そろそろ休憩かな」


 颯真はつぶやく。


 ここで皆、休憩をとることになった。


***


 旦那はワイワイ盛り上がるみんなの様子を見て、内心ため息をつく。


「戦いはみんな任せか……」


 自分は戦いをするような男ではない。


 しかし、守られてばかりいる自分自身に、旦那は、ふがいなさを感じざるを得なかった。


「なあに? 変なため息ついてさー」


「へあ!? フェネックさん!?」


「えー? 驚きすぎぃじゃないかな、旦那さん」


「……あ、あはは」


 旦那はうろたえるのも無理はない。


(フェネックさんはなぜ、こんなにもアスモデウスとそっくりなんだ……)


 フェネックの肌と髪をすべて黒くしたら、ちょうどアスモデウスと同じ見た目になる。


 旦那が地獄で会ったなかで、絶対に会いたくないランキング1位こそ、アスモデウスなのだ。


「別に任せててもいいんじゃない?」


「え……」


「どんなフレンズにも、好きとか嫌いとか、得意とか苦手とかあるし~

 ……旦那さんは戦いが得意じゃないんだよね」


 旦那は沈んだ顔つきになる。


 フェネックに、自分の弱点を突かれたからだ。


「……まあ、リョコウバトさんとか、颯真や皆の方が明らかに強くて、私は特に強くもないし……」


 アスモデウスの戦いを思い出す。


 勝ち目0の中、生き残れたのは本当に奇跡だった。


 だがしかし、もしあの時、自分に何か特別な力があれば、と思わずにはいられなかった。


(もし、力があれば――)


「あー、そうだねぇ……旦那さんのことは何も知らないけど……」


 旦那は言葉に詰まったところ、フェネックがバツ悪そうに話しかけた。


「戦いのことは私たちに任せて大丈夫なので、サポートよろしくね~」


「あ、はい……」


「何か本音があるなら、早めに相談した方がいいよー」


 フェネックの思いやりのある言葉に、旦那は認識を改める。


(フェネックさんは、アスモデウスじゃない。……信頼できるフレンズだ)


「あ、そうそう。旦那さんがくれたお水、すごく美味しかったよ~」


「え、普段飲んでる水じゃないんですか?」


「旦那さんの真心がこもってた分、味が美味しくなってたんだよね~」


 なんじゃそりゃと言いながら、旦那は笑顔になるのであった。


***


「よ〜し! みんな準備は良いか?!」


 颯真が大きな声で皆に問いかける。


「それじゃあ…訓練開始ィッ!!」


 問題ないことを確認した颯真は訓練の再開を宣言した。


「…うみゃ!? 待って!」


 しかし、サーバルが突然あわてたように叫ぶ。


「何だ?」


「見て!後ろ!」


「ん?」


 颯真は後ろを見て、驚愕する。


「まずいぞこれは……凄くまずい」


 みんなもすでにサーバルの指す方向を見て、顔を青ざめた。


「なんなのだ!?」


「まずいかもだね〜」


 強大な力を放ち、この場の全員が恐怖を感じるほどの相手――


 ビースト化したシーサーバル、暴走したライトとレフティだった。


「……ミライ!」


「なんでしょう!」


「サーバル、アライグマ、フェネックと一緒に付近のフレンズの保護と護衛を頼む!」


「――でもそれは」


 颯真の目に迷いは無い。


「アライさんも加勢するのだ!」


「ダメだ! ビースト化した守護けものだぞ! 被害範囲がどれほどのものか想像がつかない!」


 一人で相手取るには、今のシーサーバルたちはとても危険だった。


「ここは、俺が何とかしてみせる!」


 それでも、颯真は宣言した。


「……」


 ミライは、分かりましたと言ってうなずくと、すぐにフレンズたちに呼びかけた。


「行きますよ!」


「……分かった! 負けないで!」


「こっちは任せるのだ! そっちは頼むのだ!」


「任せたよ〜!」


 ミライ班の四人は付近のフレンズ達の避難と護衛に向かった。


「よし……行ったな?」


 颯真はつぶやくと、シーサーバルをにらむ。


 二体のシーサーバルの額には、「P」の文字があった。眼は常に発光し、手は肥大化している。


「グルゥゥゥゥゥウ」


「グァォォォォォオ」


 殺意のこもるシーサーバルのうめき声。


 しかし、颯真は怯えるそぶりを見せない。


「さぁてと――」


 颯真とシーサーバル。


 お互いが眼光光らせ、にらみ合う。


 まさしく一触即発の状況。


 そして――


「それで颯真さん、私たちはどうするんです?」


 ――そんな中、颯真に対して全く空気を読まない発言をする奴がいた。


 その名はリョコウバトである。


(リョコウバトさん……それ、自分も思った……)


 旦那は心の中でつぶやく。


 最強の味方と最悪の敵の戦いの場にて、リョコウバト夫婦は完全に逃げ遅れていたのであった――


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