颯真の覚悟

「これから、煉獄の塔攻略作戦会議を始めます。」


 眼鏡をかけた女性がそういった。


 名前はミライ。


 温和な口調で、この場を仕切る。


「宜しくお願いします」


 一同頭を下げる。


 この場にいるのは、颯真、リョコウバト夫妻に加え、探検隊隊長はやて、ドール、ミーア、マイルカ、ハクトウワシ――


 それに加え、3人のフレンズ――サーバル、アライグマ、フェネックである。


「この三人に関しては、私達が機密にしていましたが既に知っていたので、問題はありません」


 そうミライは言った。


「颯真さん、それにリョコウバト夫妻さんは、安心して会議に参加してくださいね」


 はい、と3人は答える。


「話を戻しますが、現在自衛隊が対処している煉獄の塔について、情報を共有します」


 そう言った彼女はモニターに塔周辺の情報を表示した。


 一同が驚きの声を上げる。ざわめいた。


「これは塔周辺の情報です。変異型…白セルリアンが塔の壁に張り付いています。恐らく、内部にはファージセルリアンが存在していると思われます。」


「ファージセルリアンとは何なのでしょう?」


 リョコウバトはミライに尋ねる。


「ファージセルリアン、それは他セルリアンの個体に取り付く特徴があります。そして、とりつかれたセルリアンは、白セルリアンとして変異するのです。」


 ファージセルリアンおよび白セルリアンは、通常のセルリアンとは違った、特殊な性質を持つセルリアンだった。


「普通のフレンズがファージセルリアンに取り付かれた場合、セルリアンと同様に汚染される可能性が高いと、私たちは考えています」


 ファージセルリアンがいるため、探検隊は塔の周辺を立ち入り禁止としていた。


「しかし、颰<はやて>さんの情報によれば彼が例外に当たるそうですね? 颯真さん」


 また一同がざわめく。


 ミライの問いを受け、颯真は答えた。


「俺は、、感情がある者なら全て対話が出来る。例え言葉が話せなくとも」


 ハクトウワシは驚きながら席を立って、颯真を見る。


「セルリアンと対話するなんて出来るの!?」


「今は出来ない」


 その言葉に、ハクトウワシは強く反応する。


「……そんな戯れ言を、皆信じると思うの!?」


「何れにせよ信じるを得なくなる」


 颯真の自信を、ハクトウワシは理解できず、固まる。


 ミライは別の質問を颯真に投げかけた。


「ドールから聞いた話だと、貴方からはセルリアンの匂いがしたと聞いたのですが?」


「俺がセルリアンという確証は?」


 颯真は質問に答えなかった。


 確証について、という颯真の問いに、ドールが答えた。


「今でもセルリアンの匂いがする事、更に背中が少し出っ張っている事です!」


 指摘された颯真は、歯を食いしばった。


「あぁ。確かにそうだ。俺は……俺は……」


 颯真は激高した。


「俺はクリエイター……元人間で、フレンズで、セルリアンだ!」


 彼の右腕が皆の前でセルリアン化する。


「what!?」


 ハクトウワシは驚きの声をあげる。


「どうやら本の内容は正しいようですわね?颰隊長さん。」


「……」


 ミーアの問いに隊長は何も答えない。


 大広間のフレンズ達は、皆困惑していた。


「だから言いたく無かったんだ……普通の人やフレンズが聞けば敵と認識する……逆に、セルリアンが見れば捕食対象になる!」


 争いの中において、どちらでもない颯真は忌み嫌われていた。


「どちらからも忌み嫌われて今の俺に安らかに生きる場所はないッ!

 今のお前らに、俺の気持ちは分かるまい! そうだとも! お前らフレンズはセルリアンを敵としてしか見ていないんだ!

 一方的な偏見で、他者を殺している!」


(颯真さん…こんな悩みを…)


 リョコウバトは颯真の苦しみを察する。


 皆、颯真の怒りを静かに聞いていた。


「だから戦いは終わらないんだ……多くの血が流れ、関係ない命が散って行き、挙句の果てに武力行使で解決する始末だ!

 お前らは一体何がしたいんだ! 一方的にセルリアンを殲滅し、勝利した事に酔いしれて、同類の為にと我が身を滅ぼす!

 まるで人間が起こした戦争じゃないか! こんなのは、一方的な……」


 颯真は、故意によって起こされた戦争は無くすべき、と考えていた。


「なら、貴方は何故戦うのですか?」


 ミライの質問が颯真の口を止めた。


「この世界から争いを無くす為に。その為だけに、俺は戦う」


 颯真の覚悟だった。


「矛盾しています。争いを無くす為に戦うなんて」


「分かってる。例え矛盾を孕んでも俺は、いや、俺達は戦う。未来の為に」


 颯真は独りではない。


 彼自身の中に、複数の人格が存在するからだ。


「貴方は、背負うんですね?」


「勿論だ」


「分かりました、信じましょう。貴方が持つ、その可能性に」


 ミライがそう口にした途端、ハクトウワシは声を荒げる。


「ミライまで!」


 颯真の存在と話しぶりから、探検隊にとって有害である可能性は0ではない。


 ハクトウワシは、颯真という存在に信頼を置くのは早計だと踏んでいた。


「……人はね、物事を話し合いで解決出来なかった時、戦争を始めちゃうんですよ」


 ミライはハクトウワシを諭す。


「もしセルリアン達とも戦わない道があるなら、颯真さんを信じてみたいなって」


「ッ――」


 それがミライの考えだった。


「君も、今ので気付いたでしょう? ハクトウワシ。

 彼はやはりクリエイターで、その力を私利私欲では無く自分を信じている皆の為に使う覚悟があるって」


「隊長……」


「それってきっと凄い事なんだ。僕なら自分を守る為にしか使ってなかったと思うし、何より彼は強い。戦う強さでは無く、心が」


 二人の隊長の言い分に、ハクトウワシは折れるしかなかった。


「話を戻します。現在、煉獄の塔にはファージセルリアンが大量発生しています。そこで私達は橋頭堡を作る為、その足がかりとなります。必要以上の駆逐はしない様に、余力を残しつつ進軍しましょう。以上」


 そうして、会議は解散することとなった。


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