颯真無双
「イィーッヤッホーッ!!」
颯真は勢いよく、穴から飛び出した。
地獄と煉獄は、モグラの穴のように繋がっているのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「楽しいですわ!」
夫婦も穴から飛び出す。
これで三人は煉獄の地に足を踏み入れたのだった。
「さ〜て、どうしたものか、、、。」
彼は辺りを見渡す。
「ジャングルですよね」
「あぁ、多分」
辺り一面には緑色の植物が茂っている。
「さっき話に出てきた、【煉獄の塔】ってのは……?」
「どうやらこの辺りじゃないみたいだ」
颯真は周囲を見回す。
「看板を見た限りだと、アンイン地方立ち入り禁止区域らしいな」
「アンイン地方? 立ち入り禁止区域?」
全く聞きなれない言葉に、旦那は首をかしげる。
「あぁ…やばいかもな。」
「そうこうしている合間に、来てしまいましたわね」
「え、何が?」
「何かは分かりませんわ」
颯真とリョコウバトが戦闘態勢をとる。
旦那は二人が見る方向を見る。
「何、あれ?」
謎の生物。
カラフルなスライムのような体。
大きな真っ黒い目玉。
まる、しかく、さんかく。
数十以上の、大小さまざまな、生き物に見える何かが、ふよふよ宙に浮きながら、こちらに向かっていた。
「あれはセルリアン。君たちは知らないのか?」
「うん。全く初めて見た」
「そうか」
颯真はセルリアンと呼んだ存在に対して、にやりと笑う。
「さ〜て、駆逐するか。」
颯真はその姿を変えた。
エゾオオカミのフレンズから、羽が生える。
そして、重火器が颯真の周囲を飛び回る。
「ユニオンフレンズ・ウイング」
颯真は自らの形態を、そう名乗った。
「目標を駆逐するッ! 行けェ!」
颯真の周りを飛んでいた武器が火を噴く。
ありったけの弾薬が上空からセルリアンのいる地面へと降り注がれた。
爆発。
マズルフラッシュ。
土と木が焼けるにおい。
敵――セルリアンは次々と細かい結晶へと砕かれた。
パパパパパパパパパパパパパパッカァンッ!
聞きなれない奇妙な音。
セルリアンの体はきらきらと宙に舞っていった。
「これで最後ですわね」
リョコウバトはそうつぶやく。
セルリアンは消え去っており、颯真による圧倒的な破壊の爪痕だけが残る。
颯真は能力を解除し、元の姿に戻った。
「す、凄いです!! 颯真さん!」
旦那はそう言って駆け寄る。
「そうか?」
「当たり前ですよ! あれだけの爆発と破壊は見たことないです! 凄すぎて、身震いが止まりません!」
結婚する前の旦那の娯楽といえば、アニメ、漫画、映画、ゲーム、プラモデル、フィギュアなど。
目の前の光景を見て、旦那は興奮していた。
血が沸き立つほどのアドレナリン。
目の前の光景のような、圧倒的な力と破壊を見たものは、皆、旦那と似たような反応が起こらざるを得ないだろう。
「破格の強さでしたわね」
リョコウバトも同意する。
「まだ全力すら出せて無いが……ん?」
颯真は何かに気づいた。
ガサガサ!
「誰だ」
颯真は音がした場所に向かって問いかける。
「あっ!居ました!」
可愛らしい、明るい少女の声。
動物の耳が生えていた。
そして、彼女は一人ではなく、複数人いた。
「どうも、初めまして」
短パン半そで、そして帽子をかぶった人間。
いわゆる、探検隊の恰好をしていた。
「貴方は?」
リョコウバトは尋ねる。
「私、ドールって言います!」
「ドール……アカオオカミか」
颯真がドールに尋ねる。
「はい!」
「僕は隊長…はやてって言います。」
「俺は梅宮颯真だ。颯真で良い。」
「私、リョコウバトって言います。そして――」
「旦那って言います。皆さん宜しくお願いします」
隊長とドールが出てきた茂みの奥から声が聞こえてくる。
「大丈夫ですの?」
「わぁ〜い! ヒトだ〜!」
隊長は茂みに向かって声をかける。
「皆聞いて。この茶色いオオカミさんが颯真さんで、あっちがリョコウバトさん。そして旦那さんだよ!」
すると、3人のフレンズが出てきた。
眼鏡をかけた賢そうなフレンズ――
「礼儀として挨拶はしますわ。私、、ミーアキャットと申しますわ。」
凛々しく強そうなフレンズ――
「私はハクトウワシよ!」
天真爛漫なフレンズ――
「マイルカだよ〜!」
人間の隊長一人、フレンズ四人。
リョコウバトたちがジャングルで出会ったのは、探検隊だった。
「それで、お前らは何でここに?」
颯真が尋ねる。
「たまたまこの辺りを通りかかってね。セルリアンが大量発生したから皆でどうにかしようってことだったんだけど――」
隊長はちらりと、破壊の痕跡に目を向ける。
颯真たちに懐疑的なのは間違いなさそうだ。
「じゃあもう一つ聞くが、お前達って探検隊か?」
颯真は質問を続けた。
「そうだね。何で知っているの?」
「本でな」
どんな本なのか、颯真は言わなかった。
「君ってフレンズなの?」
今度は隊長が、颯真に尋ねた。
「違うと言えば違う……かな」
「じゃあ君は僕達の敵……セルリアンかい?」
「それもちょっと違うかな」
颯真は首を少し傾げて答える。
「フレンズでもセルリアンでもない?」
「その両方だ」
探検隊たちに緊張が走る。
「隊長、危ないわ…下がって」
ハクトウワシはそう言って、隊長の前に立つ。
「セルリアンの匂いもします…! それに、この惨状はただ事ではないと思います」
ドールはそう言って、戦闘態勢をとる。
「つよそ〜!」
「そうですわね」
マイルカ、ミーアも、ドールに続いて構える。
「まぁ疑うのも無理ないか」
戦おうとする探検隊を見て、颯真はそうこぼす。
「それはどういう意味?」
隊長は首をかしげる。
「その内分かる」
不穏な空気に旦那は叫ぶ。
「颯真さん!」
「大丈夫だって、、軽く終わらせるだけだから…な?」
旦那は引き下がる。
颯真も探検隊も臨戦態勢だ。
リョコウバト共々、近づくわけにはいかなかった。
「それじゃあ、行くよ! てぇい!」
最初に仕掛けたのはドール。
爪を立て、颯真を引っ掻きように一閃した。
「良い攻撃だが…まだまだだな。」
しかしその瞬間、颯真はドールの手首を掴み、ひねった。
「うわぁ!?」
自然と、ドールの背中が颯真側へ向いた。
そして颯真は即座に、ドールの両腕を、自身の片腕と胸板で挟みつけ、固めた。
変則的なアームロックだった。
「俺には止まって見える。」
(つ、、、強い!)
ドールは自分が軽くいなされたことに、戸惑いを感じえない。
「ドール!今助けますわ!」
ミーアが叫ぶ。
そしてミーアは懐から白チョークを取り出して投げつけた。
「その程度の騙しでビビるとでも?」
颯真はあえて身に受けた。
「なっ!?」
が、全く微動だにしない。
「距離を取るのは良い事だが接近された時の対処法はどうだ?」
「!」
颯真は後ずさるミーアキャットのほうへ向かって駆け出した。
ドールを盾にして――
「ッ!」
ドールは必死にもがく。
自身の後ろにいる颯真に対して、頭突き、蹴り、何とか振りほどこうとする。
が、颯真を振りほどけないどころか、動きを止めることすらできない。
「速い――」
瞬く間に、颯真はミーアの至近距離に近づいていた。
「よいしょっと。」
ミーアの足元を払い、尻餅を付かせる。
「痛っ!」
その瞬間、マイルカが颯真に接近した。
「私の攻撃を喰らえ〜!」
尻尾を振り回し、颯真にたたきつける。
「まだまだだな。」
「え!?」
颯真は、ドールを掴んでない方の手で、マイルカの尻尾を掴む。
「攻撃の挙動が単純過ぎる」
マイルカの攻撃するタイミング自体はよかったが、あまりに素直な攻撃だった。
「うわぁ!!」
そのままマイルカを放り投げる。
マイルカは地面に転がった。
「強すぎ〜!」
マイルカは悔しそうに言った。
「最後はお前か」
颯真はハクトウワシに目を向ける。
「この私が相手よ!」
そしてハクトウワシは宙に飛び上がる。
「飛んでるのか。厄介だな」
「喰らいなさい! ジャスティス――」
ハクトウワシは攻撃の体勢に移った。
「それでは間に合わないな」
が、颯真はハクトウワシの動きを見て、冷静に判断を下す。
「なっ!?」
颯真は、ドールを手から離し、ハクトウワシと同じ高さまでジャンプしたのだ。
「どうした空の王者ハクトウワシ?」
「ジャスティス――」
「さっきも言っただろう?」
颯真はハクトウワシの腰に組み付く。
「グッ!」
そして颯真はハクトウワシを投げ飛ばした。
ハクトウワシはきりもみ回転しながら、さらに上空へと飛ばされる。
「ひゃああああああああああ!?」
ハクトウワシは自身の体勢をもとに戻すことが出来なかった。
回転したまま上空へと飛ばされていくのであった。
「よっと」
そして、颯真はそのまま地面に着地した。
「ヤァァァァッ!!」
「奇襲は普通声なんか出さねぇって。」
颯真はもう一度、ドール抑え込んだ。
(またやられた!?)
「……そろそろかな」
颯真はドールへの組み付きを解除して、ある地点に立って空を見上げる。
「え、離したの―ー?」
目を開くドール。
次の瞬間、颯真は落ちてきたハクトウワシを受け止めていた。
「よし、皆怪我は無いな?」
颯真はドールたちを見て、そう尋ねた。
地面に伏されたドールとミーアとマイルカ、颯真にお姫様抱っこされたハクトウワシ。
皆、怪我はなさそうだった。
「凄い」
「戦意だけを消失させるなんて」
旦那とリョコウバトは、颯真の戦い方に驚く。
事実、すでにドールたちは、颯真への戦意を失っていた。
「本気出せればもうちょいマシな方法が使えたんだが。仕方ないか」
「その方法って?」
「ああ、意識同士を繋いで対話が出来るんだがまだ出来なくてな」
「え!?」
驚く旦那を差し置いて、颯真は隊長に尋ねた。
「さて、一つ道案内をして貰いたいが、煉獄の塔って何処だ?」
「煉獄の塔!?」
隊長は驚いた。
「お? 知ってるのか?」
「探検隊の中で、立ち入り禁止にされている場所じゃないか! なぜそんなところに向かうの!?」
「俺達は探検隊じゃない」
隊長は颯真をじっと見て、一言も発さない。
「こう見えても急いでるんでな」
数秒間の沈黙。
そして、覚悟を決めたのか、隊長は静かに口を開いた。
「……ここから南西に10Km先、塔の場所を知っている人物が居る」
「良し、行こうか……案内してくれ」
「分かった」
隊長は颯真たちの事情を知らない。
しかし、それらを飲み込んだうえで、颯真たちに協力する。
(気高い――それも狼のように)
颯真の戦いを見た隊長は、直感した。
彼は信じるに値する者だということに。
「ついておいで、あっちにバスがあるから」
そして颯真とリョコウバト夫婦は、探検隊と共にバスに乗った。
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