地獄→煉獄

「……事情は分かりましたわ」


 目覚めたリョコウバトにこれまでのことを説明した旦那。


「分かってくれるんだね。助かるよ……うん……」


 目の前には、天使と悪魔が言い争っている。


アンドラス(悪魔)「退け。天使達」


サンダルフォン(天使) 「そう言う訳には行かない」


ラミエル(天使) 「この者達は私達が保護する」


メフィスト(悪魔)「そう言う訳には行かないな」


ハニエル(天使) 「ダメですよ!」


レイイエル(天使)「何をするつもりです?」


「……」


「……」


「……」


 リョコウバト、旦那、アンドロマリウスは、天使と悪魔の話に口を出さず、見守る。


(いや、まあ、私自身あんまり信じられないんだけど……)


 旦那は内心、目の前の光景についてこれてなかった。


 結局彼らは何を争っているんだろうか? と疑問に思ってやまなかった。


「居た!」


 突然の声に、皆振り向く。


「颯真さん!」


 リョコウバトがその名を呼ぶ。


 その場にいたのは間違いなく颯真、そして、もう一人天使がいた。


「ラファエルさん!」


 ハニエルがその名を呼ぶ。


 颯真とラファエル。


 この二人は、上の階での戦いを終え、ここに降りてきたのだ。


「サタンに関する事だが、この件は俺に任せて欲しい!」


 突如として告げる言葉に、この場に居る全ての者が驚いた。


「俺は、サタンと対話する為に地獄を下っていたんだ!」


「対話!?」


 サンダルフォンは【対話】という言葉に驚く。


 この場にいた天使は皆、サンダルフォンと同じように驚いた。


 そして颯真の真実に、アンドロマリウスは気づいた。


「まさかお前……メシアの能力は――」


「そうだ。この能力で、サタンと対話するッ!」


 颯真の瞳の色が変わる。


「【リターニー】……光の使徒……それは、その者の真意を鏡写しにした能力……」


 メフィストは、颯真の目の特徴から颯真の実力を見抜く。


「なん……だと……ッ!?」


 アンドラスは驚きをあらわにする。


「まさか本当に……」


 ハニエルも同じだった。


 天使も悪魔も、皆、颯真という存在に注目せざるを得ない。


「この力なら、サタンと対話が出来る!だから、、、俺に任せて欲しいッ!」


 そして天使達、悪魔達はヒソヒソ話を始めた――


「……あなた――」


「いや、ごめん。分からないことは説明出来ないよ」


 夫婦だけは、話に取り残されるのであった。



***



「待たせたな! 皆ッ!」


 そんなこんなで、コキュートスへと向かった颯真が帰ってきた。


「良く戻ってきてくれた! 少年! 待ちわびたぞ!」


 アスタロトは颯真を出迎える。


「で、どうだった?」


 ラファエルの質問に、颯真は答える。


「残念ながらサタンは居なかったが、その代わりに煉獄に行けるようになった!」


「そうか……」


 ラファエルは少しだけ顔を曇らせる。


「少し残念だが、俺達天使は天に呼ばれててな……第二天で待ってる」


 ラファエルが向かう先は、煉獄よりもさらに上だった。


「早く来いよ?」


「あぁ!」


 颯真の返事を聞いた直後、ラファエルは光に包まれた。


「光でワープとかずりぃ……」


 颯真はぼやく。


 目的地に着くのは、可能な限り早くて楽な方がいい。


 大半の人間ならば、同意するだろう。


「まぁまぁ、、、少しずつ前に行きましょう?」


 とはいえ、リョコウバトにとっては移動の時間ですら憩いだった。


 旅人のような気分で遠い道のりを歩くのが、リョコウバトの楽しみなのだ。


「…だな!」


 颯真はリョコウバトの気持ちを汲み取って、気分を改める。


「少年!」


 アスタロトは颯真を呼ぶ。


「アンドロマリウスと私はここでお別れだ」


「……そうか」


「この件が終わったら、私達の所へ来てくれるか?」


「勿論。地球の反対側だって行ってやるから待ってろよ?」


 颯真の言葉を聞いて、アスタロトは満足げにうなずく。


 そして、アンドロマリウスは颯真に感謝した。


「颯真……ありがとう」


「どういたしまして」


 旦那とリョコウバトにとって、アスタロトとアンドロマリウスの離脱は突然の話だ。


 どうやらこれから向かう煉獄へは、颯真と夫婦の3人だけになるようだった。


「アスタロトさん! アンドロマリウスさん! 本当にありがとうございました!」


「あなた達への御恩は忘れませんわ! お元気で!」


 頭を下げる夫婦に、二人の悪魔は答える。


「お前たちの居場所に、無事戻れることを願う」


「どんなに険しい道のりでも、決して諦めるなよ」


 この言葉に、夫婦は勇気をもらう。


 ここから先は煉獄の塔。


 地獄の道のりを振り返ると、苦しいこともあったが、出会いもあった。


 別れた人たちの思いを胸に、新たな舞台へと足を向ける。


「さあ、行きましょう。私、煉獄がどんな場所なのかとても興味がありますわ!」


 新たな新天地に、リョコウバトはワクワクしていた。


 そして、3人は煉獄の塔へと向かうのであった。









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