第10話 戦士は戦いを求め、女子高生は幻獣を抱く
ひとまずその場が収まったおかげで、生徒たちの騒つきも元に戻った。
また、ワイワイガヤガヤと、向かい合って座っているネズミ君にすら、声を張らなくてはいけないぐらいの喧騒になる。
それでもしばらく経つと耳が慣れたのか、騒がしい中でも、普通に会話できるようになった。
「ねえ、そこのお二人さん。さっきから見てたんだけど、あなたたちまだメンバー見つかってないんでしょ」
その声が誰に向けられたものか識別できた僕は、声の主を見上げる。
もちろん僕は座っていて、声の主は立っているということもあるのだが、たとえ僕が立っていたとしても、その女性を見上げていただろう。
ひょろっと背の高いネズミ君よりは若干低めだが、僕よりは大きい。
気の強そうな顔、床に引きずるような長いスカート。
私立ファンタジア学園の女子用の制服はえんじ色のブレザーのはずなのだが、その子が着ていたのは紺色のセーラー服だった。
長めの黒髪にはソバージュがかかっていて、胸元には、赤いリボンが垂れ下がっている。まるで昭和のスケバンである。
セーラー服の襟には、戦士科であることを示す、棍棒のバッジが付いていた。
「あたしは戦士科の
と、顎で指した先には、丸い鼈甲眼鏡をかけた小柄な女子生徒がいた。
声をかけてきた方とは対照的に、大人しそうな子だ。肩までの茶髪にゆるふわなパーマ。今時の女子高生という感じで、なかなかの美少女である。
私立ファンタジア学園の女子生徒用の制服は、白のブラウスにえんじ色のブレザーだ。緑色のリボンには薄い黄緑のストライプが入っている。下はミディアムグレーの膝丈のタータンチェックのスカート。こっちもブレザーと同色の糸が織り込んである。この子が着ているのは一般的な女子の制服だ。足元は色の濃いロングソックスに、えび茶のローファーだった。
胸には、大事そうに子猫を抱いている。シルバーの毛並みにエメラルドグリーンの目のそいつは、眠そうに特等席で甘えていた。
猫がそこにいなくても、思わず胸に目がいってしまいそうなほど、発育がいい。
ブレザーの胸ポケットには、猫の顔を象ったバッジ。ええと、これは猫科かな?
「げ、幻獣使い科の、
なんとなく育った環境の分かるような自己紹介だが。
幻獣使いか。そういえばそんな科もあったな。ということは、猫に見えるけどもしかして。
「こ、こっちは、幻獣のゲンちゃんです」
そう言われても猫に見える。
「ね、ゲンちゃん、ちゃんと挨拶しよ」
と少女が促したが、幻獣は眠そうに「フニャォン」と鳴いただけだった。いや、見れば見る程、子猫。
「どうする?勇者」
と、ネズミ君は僕に判断を求めてきた。
「へえ、やっぱりあなた勇者さんなんだ。良かった、ラッキー。勇者科の人って人気があるから、組めないと思ってた」
ちょっとくすぐったいな。人に喜ばれることに慣れてない。
「いいんじゃないの?これで四人揃うし」
戦士は必要だろう。幻獣使いがどんなものかは知らないけど、他の人を探すのも面倒臭い。
「俺は勇者がいいならいいぜ」
ネズミ君も同意してくれた。
「やった!ってことで、ヨロシクね」
「宜しくお願いします。えっと、破壊さんに紋須さん」
「鉄子と妙子でいいよ。ところでそちらはどなた様?」
「あ、この人は盗賊科のネズミ君」
「ネズミじゃないっての。
「勇者科の
「え、名前も勇者さんっていうの?そんじゃ筋金入りの勇者さんじゃない!うわ、あたしたち、超ラッキー。勇者の中の勇者とパーティ組んじゃった」
よ、喜ばれてる、のかな?
やっぱりここは価値観が違うのかもしれない。
「というわけで、勇者さんにネズミ君、ヨロシク!」
「よ、宜しくお願いしますです!ゆ、勇者さん、ネズミさん」
「だから盗見だっての!」
なんだかなし崩し的にパーティメンバーが揃ってしまった感があるが、ともかく心配していたメンバー集めが割とすんなりと終わってホッとした。
気が付けばあんなにガヤガヤしていた学生食堂も、一人二人と減っていき、数えるばかりとなっていた。
なんだかんだ言っても僕たちはまだ高校生。ノブさんの酒場という大袈裟な名前の学食も、そんなに遅くまで開いているわけではない。
「よっしゃ、今日はもう遅いからまた明日にしようぜ」
と、ネズミ君が会のお開きを宣言した。
「明日もまたここに集まるの?」
「いやいやいやいや、勇者さんよ。俺たちは遊ぶためにこの学校に入ったわけではございやせんぜ。明日になればみんな武器を貰えるはずだから、早速ダンジョンに潜ってみようや」
「まあ、遊民かと思ったら意外と真面目なのね。でも、賛成よ。早くモンスターぶっ飛ばしたくてウズウズしてるんだから」
危ないな、鉄子って子。
「盗賊と遊民を一緒にするなって」
「どう違うのよ」
「親の金で生きてるのが遊民で、人の金で生きてるのが盗賊だ」
それならまだ遊民の方がいい。
「ま、とにかく、普通、新入生で明日から潜る奴なんていないだろうから、他の生徒と差を付けてやろうぜ。心配ないさ、附属出身の俺に任せとけって。というわけで、明日は午前中の授業が終わったら各自で飯を食って、14時に学園の裏庭のダンジョンの入り口に集合だ。そっちの仔猫ちゃんもいいかい?」
と、ネズミ君はからかうような視線を妙子に向けた。
「げ、ゲンちゃんは立派な幻獣です!馬鹿にしないでください」
ゴロゴロゴロゴロ、と、その幻獣は甘えるように喉を鳴らした。
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