第14話 ゴールデンウィークへようこそ!
何が悲しくてゴールデンウィークに制服を着なければならないのか?
うう~。本当なら今頃リコと一緒に遊びに出かけたりしているはずだったのに! もしくは家族でお出かけとか?
わたしの中学二年生のゴールデンウィークは学校の理科準備室に埋もれている。
AI研究会に入部して二週間。AI研究会が鉄道研究会と部室を共有しているので活動日は週三日。なお水曜日は鉄道研究会との共同使用日に当たる。そんな活動日が数えるほどしか過ぎない内に大型連休はやってきた。
「AIロボット部門のルールは分かってきた? あすかりん?」
理科準備室のソファで寝転びながら冊子を広げる私に声が掛かる。ルールブックから視線を外すと、コーラのペットボトルを片手に持った倉持くんが立っていた。
「うーん、まぁ、ちょっとずつ? 大体わかった気がするんだけど、分からない言葉がありすぎて、格闘中~」
「まぁ、分かんないことがあったら何でも聞いてくれたらいいお」
そう言って倉持くんはニカリと笑った。
「ありがとう!」
基本的に倉持くんは優しいのだ。――神崎くんと違ってね!
一応、入部してから、わたしは少しずつAI研究会の部員としての勉強を進めている。とはいえ、基本的には勉強ってよくわからないので、渡された本を読んでいるくらいなんですけどね。でもやっぱり、技術的なことは難しくて、なかなか勉強も進まない。
AI研究会は残念イケメンと変人の巣窟。そんな風に聞いていた。まぁ、問題のジョシュアくんがいなくなったことで、イケメン度はぐっと低下したわけだけど。入部してみて変人の意味がわかった。変人というか、やっぱり二人とも天才なのだ。二人が二人でそれぞれに何か作業をしているし、二人が話していることは次元が違いすぎて意味がわからない。だから普通の女子中学生なわたしと二人の間にはどうしても溝がある気がするのだ。
あーあ、やっぱり、わたしに手伝えることって荷物運びとか買い物しかないのかなぁ。
そんなことを考えていると、神崎くんの声がした。
「おい、アスカリーナ。ちょっと手伝ってくれるか?」
「え……あ、うん! いいよ!」
来た来た来た来た! わたしだって役に立つんだから!
倉持くんが持つアズールドラゴン2号のパーツを覗き込んでいた神崎くんがこっちを向いている。わたしは閉じた冊子をソファに置いて上半身を起こした。何だろう!?
「5ミリ厚のアクリルボードを買ってきて欲しいんだけど?」
「……あ」
結局、買い物だった! 残念!
『リコ〜。何してる〜。一緒に買い物行かない〜』
『あれ? あーちゃん、部活は?』
『部活で買い物〜』
『ドコ?』
『
『あ~、あそこ? めっちゃ北じゃん』
『それほどでもないけど?
『う〜ん、でもホームセンターかぁ。ショッピングセンターとか本屋さんならな〜』
『だよね〜』
中学生女子同士がゴールデンウィークに連れ立って出かける場所としてホームセンターは人気スポット――ではないよね。夏休みなら、花火とかプールのグッズとかホームセンターならではのアイテムがあるんだけれど。まぁ、アクリルボードですからね。はぁ。わたしこのままで女子力大丈夫かな?
『それに今、従兄弟が家に来ているから、ちょっと出にくいの。ごめんね、あーちゃん』
あ〜、それ先に言ってよ! 何も従兄弟さんよりも、アクリルボードを優先してなんて言わないよ! ちなみに、なんでアクリルボード? って思ったけれど、ロボットのパーツ間の高さ調整をするのに使うらしい。金属でやるよりも多少衝撃も吸収できて良いとのこと。あと加工が楽なんだとか。AIっていうとなんだかもっとハイテクでサイバーなものをイメージしていたけれど実態は地味なんだ、ってなんとなく気付いてきた。もっともハードウェア――つまりロボットの体の方は地味で、神崎くんが担当するソフトウェアの方は派手なのかもしれないけれど。スマートフォンに中指でフリック入力して返す。
『従兄弟さん来てるなら仕方ないよ〜。エンジョイ、ゴールデンウィーク! リコ☆』
『あーちゃんもね☆』
リコからのメッセージに既読をつけるとわたしは鞄にスマートフォンをしまう。
うーん、「あーちゃんもね☆」って言われてもゴールデンウィーク、理科準備室で細々としたロボット製作のお手伝いをして、本読んでお勉強して、そしてホームセンターにお買い物。マジでわたしのゴールデンウィークが迷子だわ。女子中学生なのに!
あーん、リコとお出かけできないまでも、ミステリー小説を読みたい。ううん、そんなこと言っていちゃダメ。AI研究会で頑張るって決めたんだから。オープンカップ京都大会までもう二週間ちょっと。ある意味でわたしのチームメンバーとしてのデビュー戦。少しでもいいから役に立ちたいのだ!
「――ま、頑張りますか!」
自転車置き場から五月の空を見上げて、わたしはカバンを自転車のカゴに投げ入れた。
キコキコとペダルを踏みながら北上。ホームセンターではせめて自分へのご褒美に何か飲み物かお菓子でも買おうかなぁとか、帰りにどこか本屋さん寄れるかなぁとか、考えながら。まー本屋さんはちょっと足を伸ばして駅前の映画館の下にある本屋さんかなぁ。
――アクリルボード、アクリルボード……っと。
見て回ってもよくわからないので、店員さんにどの通路に置かれているのかだけ聞いた。お兄さんに指差してもらって目的のコーナーが分かると、頭を一つ下げてその場所へ。
一人でホームセンターに来るなんて初めてかもしれない。服やカバン、靴やおもちゃなんかがたくさん売られているショッピングセンターとはまた違う。木材や塗料、ガーデニングのためのレンガや、補修のための釘なんかが並べられたホームセンターは、なんだか心の中のいつもと違う場所を刺激するのだ。
目的の通路を覗くとアクリルボードが並んでいる棚の前に先客がいた。
わたしと同じくらいの年頃の男の子。すらっと高い背丈に、外国の人かなって思ってしまう金色の髪の毛。グレーのパーカーに黒いスキニーのジーンズを穿いた少年。それは――
「……あっ!」
わたしが思わず声を漏らすと、その少年はこちらを振り向いて、怪訝そうに首を傾げたあと、彼もまた「あっ」と目を見開いたのだった。
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