第13話 ジュニアAI選手権って何ですか?
ジュニアAI選手権とは中学生と高校生を対象としたAI技術の普及と教育を目的にした大会である。AIロボット部門、対話システム部門、パターン認識部門からなり、各校の部員はチームを組んでいずれかの部門にエントリーする。神崎くんや倉持くんの参加している部門はAIロボット部門。
最も大きな大会は夏に開催される、その名もずばりジュニアAI選手権。夏休みが始まったくらいの時期に地方予選があって、夏休みの終わり頃に地方予選通過チームによる全国大会が開催されるらしい。この辺りの地方予選は京都府と滋賀県と奈良県の合同で開催される京滋奈大会。今年の全国大会は福井県で開催されるらしい。
その他には冬にウィンターカップがあるのだけれどこれは地方大会しかなくて全国大会は無いとのこと。ウィンターカップは、去年、青龍中学の体育館が京滋奈大会の会場になって、神崎くんたちのチームが優勝した大会だ。
「――ということで合っている?」
私は受けた説明をなんとかまとめる。神崎くんの目が怖い。倉持くんもちょっと疲れ気味。物わかりの悪いわたしのために、二人によって黒板を使いながらの説明がこれまで三〇分ほどに渡り行われていたのである。お疲れ様です……。
「まぁ、合っているよ。それでいい」
溜め息をつく神崎君に、わたしはホッと胸を撫で下ろした
「――でも、参加するのは俺とクラヌンティウスだけじゃなくて、お前もだけどな!」
そ……そうでした!
「えっと、じゃあ、わたしもこの夏の大会から、神崎くんや倉持くんのチームメンバーとして参加することになるのかな?」
正直、今はまだAIのこともロボットのことも全く分からない。でも大会が七月なら三ヶ月以上あるんだし、これから猛勉強すればなんとか、ちょっとはお手伝いも出来るかもしれないなぁって思う。まぁ、とても対等な立場のチームメンバーってわけには行かないだろうけれど。足を引っ張るだけの存在にはなりたくないのだ。
「当たり前だろ。AIロボット部門のチームメンバーは三人と決まっているんだ。そのためにアスカリーナには入部してもらったんだからな。きっちり働いてもらうぞ」
あ、来た、人数合わせ的発言。でもちゃんと実態としての内容もあるから腹は立たない。
「わかったわ。でも、良かった。夏の大会までにはあと三ヶ月以上あって。それまでにわたしもちょっとずつAIとかロボットのこと、わかるようになればいいんだよね!?」
わたしのその言葉に、ブレッドボードへと視線を落としていた倉持くんがヒョッコリと顔を上げた。
「あすかりん、公式の大会は七月までないけどね。それまで何もないわけじゃないんだお」
「……え? そうなの?」
「公式の大会じゃないんだけれど、それまでに少なくとも一度、有志の中学で集まって行われる練習試合みたいな大会があるんだお」
「……練習試合?」
「ああ、そうだ。それがオープンカップ京都大会。――それが俺たち新生アズールドラゴンの緒戦となるッ……!」
「それで――そのオープンカップって……いつあるの?」
ドキドキしながら上目遣いに神崎くんを見ると、彼は液晶画面から視線を上げた。
「ゴールデンウィーク明け。五月の下旬だ」
「えええええ? もう実質一ヶ月無いじゃん!」
カレンダーを思い出す。
今日が四月の第三週だからカレンダー上は一ヶ月ちょっとあるわけだけれど、ゴールデンウィークで一週間無くなる。だから実質一ヶ月無いのだ。そんな短期間でわたしはどこまでAIのこと、ロボットのこと、それから競技のことを理解することができるのだろう?
でも、そう頭を抱えるわたしを神崎くんと倉持くんは不思議そうに見つめてくる。
「え? ……なに? わたし何か変なこと言った?」
「いや、どうして『実質一ヶ月無い』んだ? アスカリーナ?」
「そうだよ、あすかりん。今はまだ四月の第三週だお? 五月下旬までは一ヶ月以上あるお」
え、いや、単純な引き算だとそうなるんだけどね。ほら、あるじゃん? 大型連休が。
「ゴールデンウィークがあるし。実際には学校のある日ってもっと少ないじゃない?」
「ああ、だからむしろ一ヶ月以上あるわけだよな? ゴールデンウィークあるわけだし」
「そうだお。ゴールデンウィークがあるから、一ヶ月以上あるんだお! アズールドラゴン2号たんの誕生にはまだ一ヶ月以上の猶予があるんだお!」
あれ? わたし、何か、間違っている? いや、だからゴールデンウィークが……
「だからゴールデンウィークの間は休みでしょ? だから――一ヶ月……無いじゃない?」
「……何を言っているんだ? アスカリーナ。確かに授業は無いが、だからこそ、その分、開発に打ち込めるんじゃないか? つまり、実質その分、開発時間が確保できるから、一ヶ月以上あるわけだ」
「え……?」
「そうだお。神崎氏の言うとおりだお! ゴールデンウィークはかき入れ時。まさにアズールドラゴン2号たんの魂を降臨させる時なんだおぉっ!」
「……えっと、もしかして……ゴールデンウィークの間、部活って」
「もちろんあるぞ?」
「……何やるの?」
「開発だお」
「えっと、つまり、ゴールデンウィークの間、部活ある日、あるんだ?」
「おう」
ミステリー研究会では学校のない日に部活はしたことがなかったから、そういう可能性をすっかり忘れていた。たしかにこういう大会を目指すような部活だと休日だって部活を入れることがあるのだ。特に運動系の部活。
ゴールデンウィークは家族ともお出かけをするし、リコとも遊びに行こうと思っていたけれど、そういうことなら、少しスケジュール調整しないといけないかもしれないなぁ。
「それでゴールデンウィークの間に部活って何日くらいあるの?」
「何を言っているんだ、アスカリーナ。毎日に決まっているじゃないか?」
「――え?」
助け船を求めて視線を動かすも、倉持くんの顔に浮かんでいたのは不吉な微笑み。
「いや~、やっぱり、大会一ヶ月前となると開発もゆっくりしていられないからね~。授業が無い期間に、がっつり開発しておきたいじゃない? あすかりん?」
「もちろんさ、クラヌンティウス! 今年の緒戦、オープンカップ京都大会を制するために、素晴らしく充実したゴールデンウィークを送ろうではないか!」
二人は目を輝かせて、お互いの腕を交差させたのだった。
「ええええええええええええ!! ゴールデンウィーク毎日部活なのぉぉぉ!?」
お母さん。新しく入った部活は、思っていたよりもブラックでした。
訃報。わたしのゴールデンウィークはお亡くなりになりました。
――ちーん。
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