第12話 来訪者

「救助艇だと思うけど、何かがおかしい」


救助艇はまっすぐに砂浜に向かうと、岩にぶつかりそのまま砂浜に乗り上げた


「大変!助けないと!」


エミリは救助艇に向かって駆け出す。僕も救助艇に向かう。


「これは、救助艇じゃない。個人所有のクルーザーみたいだ」


僕は操縦席(ブリッジ)に行くと、二十歳過ぎくらいの、茶髪のお姉さんが倒れていた


「大丈夫ですか!」


僕が声をかけるが、気絶しているようだ。燃料がもったいないし、エンジンは切っておこう


「他に人もいないし、食料もそんなに無いみたいだ」


他に怪我や気絶をしている人が居ないかと思って探したが、どこにもいなかった


「下手に動かさないほうがいいし、僕には医療の知識なんて無いから、どうすることもできない」


「私、救急箱を探してくる!」


エミリは、救急箱を見つけてくると、擦り傷を手当てした。意識が戻りそうにないので、船内を少し調査させてもらう


「航海日誌すら無いなんて……」


元々書いていないのか、さっきの事故でどこかに飛んでいったのか


「書置きをして、付近を探してみる?」


「そうしようか」


クルーザーの周りを探したが、特に何もなかった


そうしているうちに、女性が船から降りてきたが、足元がおぼつかない


「大丈夫ですか?」


「ここは?あなたたちは?」


「ここは、おそらく無人島です。島の名前は知りません。僕はマサキと言います。こっちはエミリです」


紹介を受けたエミリは、小さく「エミリです」とだけ話した


「私の名前は……あれ?思い出せない……」


事故の時に頭を打ったのか、記憶があいまいらしい。これでは、クルーザーで島を脱出することも出来なさそうだ……


女性は、ポケットからハンカチを取り出すと、名前が刺繍してあった


「MISA……、私の名前はミサかしら?」


ローマ字で刺繍してあるため、苗字も名前の漢字も分からない。とりあえず、呼び名としてミサと呼ぶ事になった


「大丈夫?少し休んでいたらいいよ。私たちは、食料を探してくるね。あの洞窟が私たちの住んでいるところだよ」


津波によって中は少しぐちゃぐちゃ湿っているが、ワニも居るし、洞窟内の方が安全だろうと思う


「ごめんなさい。私も何か役に立てればいいのだけれど」


「今は休んでいてください」


僕はミサに肩を貸して洞窟内に連れて行く


「それでは、僕たちは食料を探してきます」


「ええ、気を付けて行ってらっしゃい……でいいのかしら?」


「はい」


エミリはちょっとおかしかったようで、クスクス笑っている


僕たちは、食料集めと同時に、地震で何が変わったか確認しに歩く


橋があった抜け穴の所が、大きく崩れて誰でも通れるようになっていた


森に入ると、腐ったような臭いがする


「ここ、活火山だったのかな」


この臭いは硫黄の臭いだろう


「見て、マサキ。あそこにお湯が沸きだしてる!」


エミリが指さす方を見ると、なんと、温泉が湧き出ていた


「ねえ、ちょっと入っていかない?」


正直、それどころではないとは思うが、僕も海水でべとべとだったし、入れるものなら入りたい


「でも、タオルも無いし……」


「少しくらい濡れたままでもいいよ!ね、一緒に入ろう?」


モトヤが居なくなったせいか、エミリは少し積極的になったようだ。僕は、少し迷ったけれど、エミリと一緒に入りたいと思った


「じゃあ、入ろうか」


ミサには悪いけれど、もう少し待っていてほしい


「あったか~い。丁度いい温度だね」


「僕はもう少し熱いほうがいいかな」


「ふふっ、汗をかいて尚更べとべとになるよ?」


「じゃあ、このままでいいや」


僕たちは、たわいのない話をしながら温泉を楽しんだ


温泉から上がり、森を探索していると、バナナの木を見つけた。これで今日の食料は大丈夫そうだ


「よかったね!」


「ああ、あとはキノコや木の実が無いか探しながら戻ろう」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る