第10話 ワニ

「湖の周りは行き止まりばかりだな」


僕たちは探索を続けたが、新しい道が見つかることは無かった


「きゃぁーっ!」


エミリの叫ぶ声が聞こえた。駆け付けると、エミリは小さな木に登っていて、その近くにワニが居た


「大丈夫か!」


「ええ、話しかけたら、急に襲ってこようとして……」


ワニは口を開けたまま威嚇してくる


「エサ、エサって言ってるみたい……」


僕は近くにあった枝を拾うと、ゆっくりとエミリに近づく。そうしているうちに、モトヤも駆け付けた


「うわっ、ワニ?!」


「気を付けて!お腹がすいているみたいなの!」


「わかった、マサキ、少し引き付けててくれ!」


モトヤはそう言うと、長さ3m、太さ30cmくらいの木を持ち上げた


「これでもくらえ!」


モトヤがそのままワニの上に木を叩きつけると、ワニは死んだようだ


「はぁ、はぁ、どうだ!!」


「モトヤ、ありがとう!」


エミリは感極まったようにモトヤに抱き着いた


「お、おい、恥ずかしいだろ!」


モトヤはエミリを引きはがすと、そっぽを向いた


もうワニは見当たらないが、念のためここから早く離れようと思う


「なあ、ワニを持っていこうぜ」


「え?どうして?」


「国によってはワニも食料なんだ」


そう言うと、モトヤはワニを引きずる


「でも、こんな大きいの、どうすれば」


「俺に任せてくれ。ナイフか包丁かあるか?」


「ああ、ナイフがある」


「よし、貸してくれ」


僕たちは、モトヤにワニの解体を任せた


「はぁ、かっこよかったなぁ」


エミリは、さっきの戦いを思い出しているのか、頬が少し紅潮している


「あ、マサキもありがと、助けに来てくれて」


少しムッとしていた僕にも声をかけてくれた


「助けてやれなかったけどな」


「いいよ、私もどうしようもなかったもの。言葉が分かっても、話し合いができるとは限らないんだね」


エミリは少しがっかりしたようにうつむいた


僕はそんなエミリに少しでも喜んでもらおうと、川のそばにドラム缶を運び、水を水筒で汲んで入れていった


結構な時間がたったのだろう。モトヤが解体を終えてこちらに来た


「ワニの解体なんて初めてだったから、苦労したよ。魚を捌くのとはわけが違うな」


モトヤはそう言ったけれど、ブロック状にされた肉は、ステーキのようでおいしそうだ


「あ、血が付いてる。お風呂に入る?」


エミリが、僕がエミリのために沸かしていたドラム缶風呂をモトヤに勧める


「いいのか?」


「うん!がんばってくれたんだもの」


僕は、やるせない気持ちになった


モトヤが風呂を終え、エミリが入っている間、僕はモトヤと話をしていた


「これからどうする?僕たちは、ここじゃない砂浜から来たんだ」


「こっちはあらかた探したけど、船くらいしか無いからな。あれが動いたらいいんだけど」


「それは無理そうだから、救助を待とうと思っている。一応、向こうの砂浜にSOSと書いてあるから、運よく見つけてもらえたなら助かる」


「じゃあ、もうしばらく探索を続けよう。明日は、イカダでも作ってみるか?」


「そうだね、海からなら砂浜に行くのに役立ちそうだ。向こうの洞窟にロープがあったから、取ってくるよ」


「お風呂あがったよ、マサキもどうぞ」


エミリがご機嫌で戻ってきた。エミリが楽しそうにモトヤに話しかけているのを見て、後ろ髪を引かれる思いでお風呂に入った


「そろそろ、服も洗濯したいね」


「うーん。明日、川で洗うか?俺の服も今着ている服しかないけど」


「私も。葉っぱや蔓なんかで服を作ってみようかな?」


「へーっ、作れそう?」


「やってみないと分からないけど、籠くらいなら作れるよ!」


エミリは、俺が拾ってきた竹をナイフで細くすると、簡単な籠を作った


「……隙間が多くて、採取には向かなさそうだけど、魚を獲る罠にできそうだな」


「……ごめん、そんなにうまくいかなかったみたい」


エミリは困り顔をしたが、その顔に癒された


マサキが風呂から上がったので、ドラム缶からお湯を捨て、沸かすのに使っていた火にワニの肉を枝に刺して焼いていく。焼けた肉を俺が毒味を兼ねて食べる。お、思ったよりもうまい


「結構いけるな、ワニ肉。いっぱいあるから腹いっぱい食えるぞ!」


「本当?あ、おいしい!」


「塩だけでも結構食べれるね」


空腹が一番の調味料なんだろうけど、臭みのない肉は食べやすい


「ふぅ、お腹いっぱい。このままこの島でも暮らせそうだね!」


「ははっ、できれば勘弁してほしいけどな」


「確かに。でも、そろそろ救助隊が来てもいい頃だと思うんだけど」


「まあ、俺たちは待つことしかできないから、少しでも助かる道を探そう」


「そうだね、もしかしたら、人に会えるかもしれないからね」


「洞窟に住んでいた人が、他に移っただけならいいのにね」


「それは、無いと思うけど」


僕は苦笑した。道具を置いて移住する人は居ないだろうからね


「移住したと言うより、ワニにでも襲われたんじゃないか?」


モトヤが空気の読めない発言をして、微妙な空気になった


「あっ、悪い。失言だった。エミリの事を考えていなかった」


「ううん。悪気が無いならいいよ。そろそろ、寝ようか?」


「そうだね、じゃあ火を消すね」


僕たちは、心なし離れて寝た




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