第21話 体育祭当日③

 午前の部が終了し、昼食時間を迎えた頃。

 他のみんなは家族や親戚たちとグラウンドや体育館で楽しそうに談笑をしながら弁当を囲っている中で俺はクラスの教室にいた。

 なぜ教室にいるのかというと……ははははは。そんな分かりきったことを……。

 ただ単純に俺には“親”という存在がいない。

 今日の体育祭ですら親父は仕事らしいし……まぁ高校生にもなって親と弁当を食べるなんてちょっと恥ずいような気がするけど。

 そんなことを思いながら、外の音が響いてくる教室で一人弁当を食べようかと思っていたのだが……ふとドアが思いっきり開かれる。

「は、はるくん! じ、実はぼくも今日は一人なんだ。だから一緒に食べないか?」

「お兄ちゃん! こんな白ねずみみたいな人とではなく私と食べましょ!」

「だ、誰が白ねずみなんだ!」

「三宮さんに決まってるでしょ!」

 勢いよく入ってきたかと思えば、明日香と奈々がいがみあいを始めた。

「お、おい……」

 俺は二人を止めるべく席から立ちあがろうとした時、体操服の裾を引っ張られるような感覚に気づき、斜め後ろの方に視線を向ける。

「兄さん……私と食べる、です……」

 いつの間にか雪がいた。

 普段通りの無表情ではあるけれど、視線が若干泳いでいる。

 ――緊張……? いや、照れてる?

 耳がほんのり赤くなってるし……。

「あー! 冬井さん! 抜け駆けはずるいですよ!」

 雪の存在に気がついた奈々が明日香を放り出す。

「抜け駆け……ですか? 兄さんは私の兄さんですので、血の繋がりのない汐留さんには関係ないと思いますし、これは抜け駆けではありません。兄妹としてのスキンシップです」

 そう言うと、雪はいかにも「離さない!」といった感じに俺の腕をギュッと胸元で抱きしめる。

 ――おお……。雪もそこまで大きくないとはいえ……柔らかい。

「お、己……ぐぬぬ。なかなかやるじゃないですか……」

 奈々は悔しそうな表情をしつつ、雪を睨みつけている。

 そんな中でも雪は澄まし顔。まったくといっていいほど怯んでいない。

「妹というのなら私もお兄ちゃんの妹ですっ! そうですよねお兄ちゃん!」

 キッと俺の方に視線を移動させ、肯定を求めてくる奈々。

 ――俺の方に振るんじゃねーよ!

 そう思いつつも、明日香、雪がずっと俺の方を見ているし……これは答えるしかなさそうだ。

「そ、そうだな。奈々も妹だ。たとえ血が繋がっていなくても」

「じゃあ、ぼくは幼なじみとしてのスキンシップをしてもいいのかな?」

「は? って、ちょ、何してんっスか?!」

 明日香がもう片方に腕に抱きついてきた。

 ――ああ。今俺の腕たちはさぞかし幸せなんだろう。美少女のおっぱいに挟まれて……はああああああ。羨ましいなああああああ!

 これまで自分の腕に嫉妬する輩はいただろうか? もしかしたら俺が初めてかもしれない。

「な、ななななななななにしとんじゃあああああああああああああああああああ!」

 奈々の激昂が教室内を抜け、校内全体へと響き渡った……ことは言うまでもない、よね?


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