第20話 体育祭の準備②
体育祭で行う競技は非常に無難な大縄跳びになった。
これが一番最後に残るとは思ってもみなかったし、なんなら一番人気がありそうな競技にも思える。
とにかく残り物には福があるということわざが本当なんだなと実感したところで放課後。俺は体操服に着替えて、グラウンドに出ていた。
体育祭準備の間は部活動も全て活動停止になっている。そのため放課後を使って各競技の練習を行ったり、応援団ならば応援合戦や演舞の練習などもできる。
俺ももちろん競技である大縄跳びの練習のためにやってきたのだが……
「春樹、それで縄を回すやつは誰にするんだ?」
真っ黒くろすけこと豊が俺の肩を叩いてはそう訊ねてきた。
大縄跳びの人数は八名。縄を回す二名を除くと、飛ぶ人数は六名になる。
なるべく縄を回す人は体力があって同じ背丈の方がいいと聞く。
今回大縄跳びに参加する人はサッカー部の大野くんと葉山くん、風見くん。この三人は基本的に体力があると見込んでいいだろう。そしてバンド部の豊に関しても中学時代は野球部だったということを聞くあたり、俺より体力があると言ってもいい。そのほかに女子が三名。
俺はその女子の方に視線を向ける。
「……なんでいんだよ」
「ぼ、ぼくはたまたまだよ。残った最後の競技にしようかな〜と思ってたんだ」
「わ、わたしもだよお兄ちゃん。お兄ちゃんと一緒の競技にしようだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたよ」
二人は苦笑いをしつつ、どことなく何かを誤魔化そうとしている。
そんな中で一人だけは違った。
「私は兄さんと一緒がよかったので……。一緒じゃダメ、ですか?」
相変わらずの無表情なのに首をちょこんと傾げているあたりがすごくあざとい!
その様子を見ていた奈々は「ぐぬぬ……」と悔しそうに歯噛みをし、明日香も眉間にしわを寄せている。
「べ、別にダメじゃないけど……」
「なら、よかったです」
「なぁ話の途中で悪いんだけど……春樹と冬井さんってどういう関係なんだ?」
俺と雪の会話を見ていた真っ黒くろすけ……もとい豊が不思議そうな顔で訊いてきた。
そういえばまだ俺と雪の関係を誰にも言ってなかったけな……。このことについては誰にも言わないと決めていたはずだ。そうでないと俺と奈々の関係を知っている人からすれば混乱しかねない。雪が本当の妹と話すのであれば、その経緯も話さなくてはきっと理解に及ばないだろう。
「ど、どういう関係って普通に委員長と副委員長の関係だよ」
「本当にそうか?」
豊が怪しげな視線を向けてくる。
俺はその視線から目を逸らしたい一心ではあったが、もしここで目を逸らせばそれこそさらに怪しまれる。
豊はどれくらいか俺の目を見つめた後、小さくため息をつき、肩に入った力を一気に抜く。
「そうだよな。俺の考えすぎか。一瞬冬井さんが春樹のことを“兄さん”て呼んでたように聞こえたからどういうことなんだと疑ってしまったわ。なんかすまなかったな」
「い、いや、いいんだよ。誤解が解けて何よりだよ」
俺は心底ほっと胸を撫で下ろした。
後で雪には注意しておこう。人前では「兄さん」と呼ばないようにと。
少し離れたところで談笑を交わしているサッカー部三人を呼び出したところでさっそく大縄跳びの練習に取り組んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます