第19話 二学期が始まる②

 問題は奈々だけではない。

 昼休み。俺は委員会の集まりがあるということもあって、昼食をとりおえた後すぐに特別棟一階にある多目的室へといた。

 いつものように席へとつき、会長の司会進行のもと、話し合いを進めていく。

 今回は一週間後に開催される体育祭についてだ。

 学級委員会としては体育委員会が主導として行われるため、特にやることはない。

 では何に対して話し合うのかと問われると……俺にもさっぱりわからん。この学級委員会は真面目なやつばかりが集っている。だからとりあえず話し合いがしたいだけなんじゃないか? そうすることによって自分の賢さに浸り、優越感を味わっているだけだろ。現に話している内容も学級委員会とはほぼ関係ない。例えば、今話し合っているのが校内の汚れについてだ。この学校も歴史があり、校舎や体育館など至る所に劣化と見られるような汚れやヒビが見受けられる。それに対してヒビは業者を呼び、修繕工事を行ってもらうとか、汚れに関しては体育祭本番前の空いた時間を使って、全校生徒で掃除をするとか……これって、学級委員会の話す議題ではないと思うんだけど、俺だけだろうか? そういったのは美化委員会の仕事だったり、ヒビの修繕に関しては生徒間で話す内容ですらない。それは学校長だったり、教育委員会や市役所だったりととにかく大人の話だ。

 そんなこんなで無駄な話し合いが続き、やっと終わった頃。


「兄さん……」


 いつもながら無表情な冬井さんが甘えた素振りを見せてきた。

 俺の胸もとに顔を埋め、時折すんすんと鼻を鳴らしている。

 幸い他の人たちが多目的室から出て行った後ということもあって、今は俺たち二人だけだ。


「ふ、冬井さん……?」


 あの花火大会以降、冬井さんの様子はだいぶ変わってしまった。

 俺のことを「兄さん」とか呼ぶし、事実上兄妹ではあるが、いきなりの出来事にまだ慣れてないと言いますか……とにかく違和感しかなくてむず痒い。

 冬井さんはどのくらいか俺の匂いを嗅ぐかのようにすんすんと鼻を鳴らした後、ようやく顔をあげる。


「兄さん。私のことは雪と呼んでください」

「え? きゅ、急に言われても……」

「いいですから私のことは雪です。そうでないと学校のみなさんに私たちの関係をばらしますよ?」

「そ、それはマジ勘弁してください……」


 ただでさえ俺と奈々は兄妹と公言してしまった手前、そう発言されると何かと面倒になってくる。弁明するにしてもみんなを混乱させるばかりだと思うし、最悪の場合、変な方向に行ってみんなから嫌われてしまうかもしれない。それだけはなんとか避けなければ、俺の平穏が崩れ去ってしまう。


「ゆ、雪……そろそろ離れてくれないか?」

「嫌です。今までどれだけ離れてたと思っているのですか? その分だけ私は何度でも兄さんの胸の中に飛び込む所存ですよ?」


 相変わらずの感情がない顔なのに言っていることが奈々すぎるッ!

 ――マズい……奈々と似たような匂いというか、そんなものを感じてしまう……。

 雪がブラコンであることはもう言うまでもないだろう。

 ただそのブラコンが単なるブラコンであれば、別に構わない。

 だが、いつの日かの奈々みたいに度を超えたものであった場合……どうしよう? 奈々はなんとか今まではぐらかしたりして逃れることはできてたけど、雪に関しては……表情があまり変わらない分難しそうだ。

 俺の普遍的な高校生活……普通に恋をして、普通に彼女を作って、普通に和気あいあいとしたものを夢見ていたのに今となってはこれ。ははは。人によっては羨ましいかもしれない。けど、こんな複雑なのはやっぱり嫌だ。

 雪を否定するつもりではないけど、やはり親父だけは許せない……。あのヤ◯チン野郎めッ!

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