第18話 花火大会翌日①

 花火大会から一夜が明けた。

 自室からはスズメの囀りが聞こえ、カーテンの隙間から見える空は昨日とは打って変わって、どんよりとした分厚い雲で覆われている。

 あの騒動以降何がどうなったのかまったく覚えていない。気がつけば、自室のベッドで着替えもせずに体育座りをしているし、今考えても何がどうなっているのか理解できない。

 ひとまず近くに放り出されていたスマホを手に取ると、通知欄には親父からだったり、母さんからだったりと結構な不在着信が入っていた。

 正直、掛け直した方がいいのかもしれないが、今はまだ心の整理というものがついていない。ある程度準備が整ってから親父の釈明を聞いた方がいいだろう。

 現在の時刻は午前六時半。

 恐る恐るといった感じに部屋を出ると、玄関の方には見知らぬ靴があり、親父の靴はない。

 誰だと思い、各部屋を見ていくと、自室の隣にある和室に布団を敷いて眠っている明日香の姿があった。

 見た感じだと浴衣からは着替えているらしく、規則正しい深い眠りについている。

 ――幼なじみとはいえ、よく思春期の男子高校生一人だけがいる家に堂々と眠っていられるなぁ。

 俺はともかくとしてあまりにも無防備すぎないか?

 そう思いつつ、ゆっくりとドアを閉める。なんで明日香が俺の家で寝ているのかはわからないが、結構疲れてそうだし起きるまでゆっくりさせておこう。

 洗面所の方に向かい、顔を洗う。

 そして、リビングの方へと移動し、朝食の準備に取り掛かる。

 食パンをトースターでこんがりと焼き、皿に目玉焼きとカリカリに焼いたベーコンをのせる。

 なんかジブリアニメに出てきそうな朝食メニューだが、まぁいいだろう。

 焼けた食パンの上にマーガリンを塗り、一口かじる。

 もう一度脳内で昨日の出来事を整理すると、まず狩野さんの奥さんが俺の実母にあたり、奈々は実の妹ではない。ということは、現段階での親父の血を引いているのは俺と腹違いの妹である冬井さんというわけになる。

 冬井さんは誕生日が十二月だったはずだから、俺が生まれた八ヶ月後くらいに誕生している。そのことに関しては昨晩の様子を見る限り親父も一応認知はしていたのだろう。実際にブラック企業なんじゃないかってくらいに親父はめちゃくちゃ働きまくっている。それなのに裕福になる気配は微塵も感じられなかった。給料の一部を養育費という形で冬井さんのところに回していたということを考えれば……辻褄は合わなくもない。

「……あっ」

 気がつけば食パンを食べ終え、自分の手まで食べようとしていた。危ない危ない。

 二枚目を焼きつつ、改めて考え込む。

 現段階としてはなんとなく家族関係については理解を深めることができた。冬井さんの件については何がどうなって隠し子ができたのか……また親父に聞き出さなければならない案件にはなってくるが。

 食パンが焼き上がり、先ほどと同様にマーガリンを満遍なく塗った後、かじり始める。

 だが、問題はこれからではないだろうか?

 実の妹ではなかったことを知られた上に冬井さんと俺が兄妹であることを知った奈々はどうなる? これまで通りに接することができるのか? いや、妹じゃないと知った以上、あれだけ妹として兄を慕っていることに誇りを持っていた奈々がこれまで通りに接してくるはずがない。それに冬井さんの異常なまでの俺に対する行動を目にした瞬間、涙を貯めて膝から崩れ落ちたくらいだ。相当なショックだったに違いない。

 あれ以降、奈々からの連絡はきていないし、俺からも連絡するつもりはない。

 どう接すればいいのか……そこも課題になってくる。

 それと冬井さんのこともそうだ。

 彼女は言動から見て、どうやら昔から俺の存在を知っていたらしい。母親から聞かされていたのかはちょっとわからないが、それでも意識していたような発言はされていた。あのブラコンを思わせるかのような行動……うーん。いろいろと衝撃がありすぎて、実を言うと、記憶が曖昧なところもある。ただ単に嬉しいという気持ちだけかもしれないし……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 考えたら考えるほどにわからん! なんなんだよ! あのクソ親父ッ! どんだけ女ったらしなんだよ!

 なんかイライラしてきた。

 俺は残りの朝食をやけ食いみたいな感じで食べると、すぐに自室の方へと戻る。

 もう嫌だ! 眠いし眠いし眠いし眠いし! 

 ベッドの方に潜り込むと、すぐに俺は眠りへと着いた。

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