第17話 花火大会②
午後七時。
花火大会の会場である河川敷に到着した。
会場内は家族連れや友人同士、カップルと幅広い年代層がおり、出店を両サイドに挟んだ道は非常に混雑している。
この街の花火大会はもちろん今日が初めてなのだが、ひと目でわかるほどに前住んでいた街とは規模が違う。前住んでいた街はせいぜい打ち上げられる花火が一万発とそこまで大きいとは言い難い花火大会だった。しかし今回は上場企業がスポンサーとしてバックについているということもあってか、打ち上げられる花火は十万発と多く、それと比例して見物客も県内外から来ている人もいるらしく多い。
通り道の両サイドにはさまざまな出店があり、どこも繁盛していそうだ。
ひとまず会場に着いたのはいいが、これからどうしたものか。
実を言うと、先ほど会場に向かっている最中に奈々からもお誘いのメールが届いていた。その時は、会場に着いてから待ち合わせをしようと返信したのだが、この状況だと奈々を見つけ出すのも一苦労だし、待ち合わせをしたところで人の往来が激しいためわかりづらい。
とりあえず会場に着いたと言うことだけをメールで伝えておけばいいだろう。
「よしっ。これからどう――」
グゥ〜。
いきなり隣の方から腹の音が聞こえてきた。
明日香の顔を見ると、ものすごく赤くして、恥ずかしそうに下を向いてしまっている。
そういえば宿題に気を取られ過ぎた夕飯はまだだった。そのことを思い出した瞬間、俺も急激に空腹感が湧いてくる。
「花火の前にまずは何か食べるか」
「……(コクン)」
それからというもの俺と明日香は各出店を食べ歩きしまくった。
以前住んでいた街の花火大会にも出店はあったが、ここの出店は種類が豊富すぎる。
最初は全種類食べようとか明日香と話してはいたけど、三品目のたこ焼きでもうダメ。お腹いっぱい。その後は金魚掬いやくじ引きなどの遊戯を楽しんだのだが……ここで明日香の意外な特技を発見してしまう。
「明日香って、射的得意だったんだな」
「得意っていうわけではないよ」
本人はそう言いつつも、すでに十個近くの景品を獲得している。次狙っているのは目玉景品でもあるゲーム機。何発か的中しているのだが、やはり大きさと重さということもあって、一発じゃ倒せない。けど、何発も的中させているため徐々に棚の後ろへと移動していき、あと二、三発くらいでゲットできそうだ。
この状況に六十手前くらいの強面な店主の顔も緊張が走っていた。額に汗を滲ませ、表情が強張っている。
「こういうのは大体現在の天候や狙っている景品の重心を計算して、最も有効な場所に立て続けで撃っていけば取れるものさ」
「そ、そうなんだな……」
いかにも簡単そうに言ってのけているが、そういうことができるのは天才しかいない。
明日香は狙いを定め、的確な場所に球を続けて集中攻撃。
その結果、狙っていたゲーム機は棚からすんなりと落ちた。
「お嬢ちゃん……只者じゃねぇなぁ?」
店主が落ちたゲーム機を明日香に手渡しながらそう言う。
「これくらい計算すれば誰だってできますよ」
明日香はにこっと微笑んでみせた。
「そうかい……。お嬢ちゃんの姿を見ていると昔の射的を思い出すよ。昔は結構上手い奴らが多かったんだけどなぁ……。今となっては時代の流れというものもあってか、めっきりそういう奴らが少なくなっちまったよ。それで景品がゲットできなければインチキをしているとかクレームを言ってくる輩が増えるばかりだし……お嬢ちゃん。来年も来てくれるかい?」
「はい! ぼくは来年もここでやってくれるのならぜひ挑戦してみたいです」
明日香がそう言うと、店主は優しそうな笑みを見せる。
「よし! なら、来年はもっと気合を入れた景品をおかないとな! 来年こそは勝ってみせるから覚悟しておくんだな」
「望むところですよ」
なんかわからないけど、いい話だった。
結局射的を出たのは午後七時四十分頃。
その頃に改めてスマホを手に取ると、メールの着信が入っており、待ち合わせ場所と時間も記載されている。
俺は射的の景品が入ったビニール袋を片手に明日香と二人並んで待ち合わせ場所へと向かうことにした。
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