第17話 花火大会①
狩野さんと会ってから早くも一週間が経過し、花火大会当日。
外は夕焼けが差し、天候も快晴。
そんな中で俺は家にこもって宿題をしていた。夏休みも残り一週間という危機的な状況。それなのに全体の半分しか終わっていない。幸い高校ではめちゃくちゃめんどくさい自由研究というものが存在していなかったからよかったものの、それを穴埋めするかのような量の科学。
もはや宿題そのものを見ただけで体が自然と拒絶反応を見せてしまう。どんなものかというと、宿題を見た瞬間に吐き気を催したり、憂鬱な気分になったり、倦怠感が襲ってきたり……もしや何かの病気なのでは? そう疑いたくなるレベルだ。
宿題を自室の机にて黙々と進めている中で家のチャイムが鳴り響く。
今日は親父も花火大会の運営がどうたらこうたらと言って、家にいない。というわけで玄関に出られるのは俺しかいないわけで……。
こんな時に誰だよと思いつつもすぐに玄関ドアを開ける。
すると、そこにいたのは紫陽花の柄が入った黒い浴衣を着た明日香だった。
特徴的な銀髪はアップにまとめられ、白い肌をしたうなじが非常に艶かしい。
「こんばんは。今から花火大会に行こうと思うんだけど、一緒に……行くよ!」
「そこは“行かない?”とかじゃないのか……。悪いが俺は宿題に追われてるんだ。残念だけど無理」
「いいから行くよ。宿題ならぼくが手伝ってあげるからさ。なんなら全部写してもらったって構わない。どうする? 花火大会に行くかい?」
「そ、そこまで言うなら……仕方ないな。明日香もせっかく準備してくれているしな」
べ、別に宿題を見せてもらえるからとかじゃないんだからねっ!
俺は明日香に少し待っててもらうよう伝えると、すぐに玄関ドアを一旦閉め、自室で外出の支度を始める。
そういえば、明日香の浴衣って本当に黒で良かったと思う。あれがもし白色だったらちょっと雪女感が出て怖い。まぁ、真夏にはいろいろな意味でちょうどいいのかもしれないけど。
「待たせて悪かったな」
準備を終えたところで俺は家を出ると、明日香と二人でマンションを出る。
日が落ち始めているということもあって、あれほどうるさかった蝉時雨も今となっては嘘のように感じてしまう。
夏特有の蒸し暑さが多少残った歩道。あたりを見渡せば、浴衣を着た人をちらほらと確認できる。
「去年もこうやって一緒に花火大会に行ったよね。街は違うけど」
「そうだな」
まさか引っ越し先でも幼なじみである明日香と一緒に花火大会に行けるとは思ってもいなかった。
またこうして明日香と一緒に花火大会に行けるのも明日香が俺の後を追ってきてくれたからに他ならない。
そういや、俺の後を追ってきたという表現……なんだか明日香が俺に対して好意を寄せているんじゃないかと誤解されかねないな。訂正しておこう。明日香は決して俺のことを好きではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます