第15話 うーみーだー!!⑤
頭が少しずきずきと痛む中、俺は目を覚ます。
どうやら奈々にビンタを食らった直後からの記憶がないあたり、気を失っていたんだなと思いながらも、女子にやられたことに対し自分への情けなさを感じてしまう。
そんな中で後頭部にある感触が伝わってきた。
ぷにぷにとした程よい柔らかさに、冷たくて気持ちい。ずっとこうしていたいと思ってしまう感触……。
「お、やっと目を覚ましたみたいだね。おはよ」
「ああ、おはよう……って、うわあ?!」
俺は驚きのあまり飛び起きる。
そして、先ほどまで寝ていた場所を見ると……明日香の太もも。
女子の太ももってあんな感触なんだなと思いながらも、一度冷静になり、付近を見渡す。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
明日香は少し機嫌を悪くしたのか、むすっとした表情をする。
「あ、ああ、ごめん。それより奈々はどこに行ったんだ?」
どこを見ても奈々の姿が見当たらない。
「なーちゃんなら飲み物を買いに行ったよ。もうすぐで帰ってくると……あ、ほら、帰ってきた」
明日香が指を差す方向に視線を向けると、飲み物を三つ手に抱えた奈々がこちらに向かって歩いてきていた。
奈々は俺の姿に気がつくと、「あっ」というような顔をして、小走りで駆け寄ってくる。
「お、お兄ちゃんが生きてる?!」
「生きてるよ!」
俺を勝手に殺すな。
奈々は俺の体温を確かめるかのように飲み物を一旦シートの上に置くと、額に手を当ててくる。
「うん、幽霊じゃないですね!」
「当たり前だろ……」
女子のビンタを食らって死亡とか……あまりの珍事件すぎて全国ニュースになるうえ、笑い者にされてしまう。そんな最後とか……一番辛すぎるッ!
そんなことを思っていると、奈々が買ってきた飲み物をそれぞれに渡しつつ、浜辺で見つけたことを話し出す。
「そういえばなんですけど、私が飲み物を買いに自販機へ向かっている最中に近くの砂浜でミスグランプリを決めるコンテストが開催されてましたよ?」
「「ミスグランプリ?」」
俺と明日香が口を揃えて疑問に思う。
「はい、なんかよくわからないですけど、優勝商品がバーベキューセットと市販の花火でしたけど……参加します?」
「いや、そう問われてもなぁ……」
“ミス”と付いている以上、女性限定のイベントだとは思うけど、参加するかしないかは奈々と明日香の判断による。
「正直ぼくはどっちでもいいかな。バーベキューセットなんていつでも手に入るし、花火にしたって、近くの花火師に頼めば、いつでも打ち上げてくれる」
「さ、さすが三宮財閥だな……。それで奈々はどうするんだ?」
「私は……まぁ、面白そうですし、参加するのもいいかなとは思いますけど……」
ということで、奈々と明日香はミスグランプリに参加することになった。
参加方法としては非常に簡単で、近くに受付みたいなところがあり、そこにいる係員の話のもと名簿に自分の名前を記入すれば、これでエントリー完了になる。
コンテストが開催されるまでは少し時間がある。俺は観覧客がいる所の一番後ろで待機していた。
一方で奈々と明日香は参加者がいるであろう舞台の裏側にいる。
午後四時。
日の光が少し和らいだとともにコンテストはビキニを着用した綺麗なお姉さんのアナウンスとともに開催された。
奈々と明日香のエントリー番号は九と十。出番が来るまでの間、俺は参加者の美しい美貌を見ていた。上は二十代のお姉さんから下は小学生まで。以外と参加者の年齢層としては幅広い。
そんなことを思っていると、さっそく奈々の出番がやってきた。
「エントリーナンバー九番! 汐留奈々さんです!」
アナウンスの声とともに舞台の奥から奈々が出てきた。
少し戸惑いを見せつつも舞台の前に立つ。
「えーっと、汐留さんは今日、誰と何しにここへ来たんですか?」
アナウンスのお姉さんによる質問トークが始まった。
奈々は緊張しているのか多少声がいつもより小さい。
「お、お兄ちゃんと海で遊びに来ました……」
「へぇ〜お兄さんがいるんですね! すごく仲良しさんなんですか?」
「は、はい。お兄ちゃんとはいつも仲良しです……」
「では、最後にそのお兄さんに何か言いたいことはありますか?」
「え、えーっと、いつもありがとうございますお兄ちゃん」
最後は自然にニコッと微笑んだところで会場は大いに盛り上がりを見せた。
俺としてもちょっと気恥ずかしい。
くすぐったさを感じながらも続けて、明日香の出番。
「続きましては〜エントリーナンバー十番! 三宮明日香さんです!」
先ほどと同じくアナウンスの声とともに舞台裏から明日香が現れる。
その瞬間、会場全体が一気にシーンと静まり返った。
決してどこかおかしいとかそういうものではない。みんな明日香の美貌に見惚れているのだ。
どの光も照り返してしまうほどの銀髪に透き通るくらい白い肌。ハーフということもあり、瞳は青く、今までに見たこともないくらいに美しい。
司会進行役を務めていたお姉さんですら、自分の仕事を忘れてしまうくらいに押し黙ってしまう。
どのくらいか時間が経過したところで我に帰ったアナウンスのお姉さんが慌てて司会進行を務める。
「え、えーっと、とても綺麗な方で私自身もつい驚いてしまいました。改めまして、三宮さんは誰と何しにここへ来たんですか?」
「…………ぼくの大切な人と思い出を作りに来ました」
――大切な人?
やたらと回答するまでに時間をかけていたなと思いきやの発言である。
まぁ、俺と明日香は幼なじみだし、奈々のことも考えると……間違った答えではない。
「そうなんですね! その大切な人というのは、彼氏さんとかですか?」
「いえ、そういうのではないです。ですけど、ぼくにとっては今後も大切な人であることには変わりないですね」
「そうですか! 何だかとっても幸せそうな顔をしていらっしゃいますね! ところでその方に何か伝えたいことはありますか?」
「そうですね……強いていうならば、いつもそばにいてくれてありがとう」
明日香の言葉とともに会場内のボルテージは一気に上がった。
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