第15話 うーみーだー!!④

 別荘から出て、道路を挟んだ先にはビーチがある。

 そこにたどり着くと、すでに一般客で賑わい、砂浜には無数のパラソルとビニールシートが敷かれていた。

 道路側には海の家などもあり、雰囲気的にもいい。

 俺たちはとりあえず砂浜の方に向かい、ビニールシートとパラソルを設置するのだが……いろいろと視線が痛いのは気のせいだろうか?

 周りをちらっと見る。


「ヒッ……」


 思わず悲鳴にも似たような声が出てしまった。

 無数の男たちから嫉妬のような眼差しを向けられ、女の方に関しては「何あれ? もしかして二股? まじサイテー」「両手に花とかマジないわ〜」「普通女の子と海に行くんだったらどちらか一人とでしょ」と言うような視線を向けられ、こっちもこっちで痛い。

 ――海に来るんじゃなかった……。

 来て五分も経たないうちにこう思ってしまうなんて自分ですら予想していなかったわ。多少男たちにはそう言う目で見られることは覚悟していたんだけどな。

 ある程度準備が終わったところでひとまずパラソルの中で涼む。


「お兄ちゃん! 一緒に遊びませんか?」

「遊ぶって何をしてだ?」

「それは決まってるじゃないですか! 美少女と海といえばやはり水を掛け合うんですよ! 水に滴る美少女……それをやっているのがお兄ちゃん……グヘヘ♡ いいですね」


 奈々が何を想像したのかニヤニヤし始める。

 ――なんか怖いなぁ。

 最近奈々が何を考えているのか本当にわからない時がある。


「海もいいけどまずはサンオイルを塗った方がいいんじゃないかな?」


 明日香がそう言い、バッグの中からサンオイルらしきボトルを取り出す。


「あ、たしかにそうですね。うっかり忘れるところでした」


 サンオイルが何なのか、正直俺にはよくわからない。

 一応日焼け止めみたいに体に塗り込むと言うことだけはラノベで知識を得ている。


「じゃあ、俺は一旦どこかに行ってくるよ」


 俺はそう言い、席を外そうとした時だった。

 二人から腕を掴まれた。


「な、何だ?」

「お兄ちゃんどこに行くんですか?」

「はるくんがこれを塗るんだよ」


 背中にとてつもない寒気が走った。


「そんなに怯えることはない。これはただのオイルさ。はるくんにも簡単にできるものだよ」

「そ、それはわかってるけど……別に俺じゃなくて、二人でやれば……」

「それができないからお兄ちゃんに頼んでるんでしょ?」

「なんでできないんだよ!」

「いいから早く座りたまえ」


 明日香は俺を無理矢理座らせると、手にサンオイルのボトルを握らせる。

 そして、二人はうつ伏せになると、上のビキニの紐をほどき始める。


「最初はぼくからお願いしようかな?」


 明日香の白くてツヤツヤな肌が日陰だというのに眩しい。

 俺は恐る恐るといった感じに手にサンオイルを取ると、薄く伸ばす。


「じゃ、じゃあ行くぞ?」

「うん、来て」


 ゴクリ。

 固唾を飲む音が大きく聞こえた。それくらい心臓もバクバクで手も多少震えている。


「ひゃっ!?」


 ゆっくりと近づけた末に明日香の背中に触れた瞬間、変な声が飛び出してきた。


「だ、だだだ大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと冷たくて驚いただけさ。気にせずに続けてほしい」

「お、おう……」


 これはいろいろと心臓に悪い。

 顔が熱くなるのを感じながらも俺はゆっくりと明日香の背中にサンオイルを塗り始める。


「んっ……んんっ……あっ……」


 時折変な声が明日香の口から漏れているような気がする。

 それに引き寄せられてなのか、少人数ではあるが、男たちがこちらに釘付けだ。


「お兄ちゃん……なんか手つきがエロいです」


 奈々がじと目でこちらを見ながらそう指摘してきた。


「そ、そんなわけないだろ。至って普通にやっている」

「ホントですかぁ〜? 三宮さんの顔めっちゃ赤くなってますし……」

「え?」

「ぼ、ぼくのことは気にしなくてもいい。だから……か、顔は見ないでほしい!」


 明日香は瞬時に顔を腕の中に埋めてしまった。

 ――そんな反応されちゃうと余計、変な気分になってしまうんだが……。

 それからして背中、腕、足と前以外ほとんど塗り込んだところでやっと終わりを迎える。

 この時、俺は精神的にも疲労感を隠せずにいた。

 女子の素肌に触れるどきどき感もあるし、周りからの視線もそう。

 正直……帰りたい。

 だが、まだ時間的には午後三時を回っていない。


「次、私ですね」


 俺は奈々のもとへ向かう。

 先ほど別荘でも触れた健康的な肌。

 サンオイルを手に取ると薄く伸ばし、奈々の肌に触れる。


「〜っ?!」


 奈々が声にもならないような悲鳴をあげた。

 一方で俺は無心状態。

 今思えば、何事も頭を働かさなければいいんじゃないだろうか? そうすれば、奈々の喘ぎ声にも似た変な声も気にならないし、周りの視線だって気にすることはない。

 煩悩さえなければ、ここはしのげるはずだ。

 俺は脳の中を“無”の状態にしながら淡々とサンオイルを塗りたくる。

 背中、腕、足全てを終わらせた後、俺はようやく通常へと戻った。


「お、お兄ちゃん……」

「はるくんさすがに……」

「え?」


 あれ? 奈々の様子がおかしいぞ?

 明日香も何というか……表情を引きづらせている。


「誰が……誰が胸までやっていいって言ったんですか!」


 バチンッ!

 奈々がビキニを正したところで思いっきりビンタを食らってしまった。

 ――わからない……。

 “無”の状態でやっていたから自分が何をしでかしたのか、記憶にない。

 奈々は涙目になりながら俺をキッと見る。


「そ、そういうのは前もって言ってからしてくださいっ! でないと、私の心の準備が……」


 ち、違うんだ……そうじゃない!

 と言いたいところではあるが、奈々のビンタがあまりにも強烈すぎて仰向けに倒れた俺は次第に気が遠くなり始めた。

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