第15話 うーみーだー!!③

 奈々の部屋の前までたどり着く。

 まだ何で泣かせてしまったかはわからないが、とりあえずドアをノックする。

 すると数分遅れでドアがゆっくりと小さく開き、その隙間から目を真っ赤にした奈々が顔だけを覗かせてきた。


「何ですか……」


 ぶっきらぼうに呟かれた言葉にどうしたものかと一瞬戸惑ってしまう。


「そ、その……謝りに来たんだ。さっきは本当にごめん」


 俺は頭を下げる。

 どのくらいこの体勢が続いたかは体感的にもわからない。

 だが、長い沈黙の末に奈々がようやく小さなため息とともに口を開く。


「……私の部屋に入ってください」

「へ?」


 俺は顔を上げるなり、奈々がドアを全開にした。

 言われるがまま中に入り、どうすればいいのか困っていると、奈々がベッドの端に座り、その横をぽんぽんと叩く。たぶんそこに座ってということなんだろう。俺は少し躊躇いがちになりながらも横に腰を下ろした。


「お兄ちゃん、許して欲しいんですよね?」

「え? あ、まぁそうだけど……」

「なら、許してあげる代わりに私のことをぎゅっとしてくれませんか?」

「……ん? ぎゅっと?」

「はい、ぎゅっとです」


 奈々は俺の方に姿勢を変えると、両手を大きく開いた。


「ちょ、ちょっと待て。別に抱きしめる必要はないだろ?」

「いいえあります。私の心は酷く傷つきました。むしろここまで傷つけたのだから責任を取ってもらう必要すらあります」

「そ、その責任っていうのは……?」

「もちろん結婚のことです。それくらい私の口から言わなくてもわかっていましたよね?」

「……」


 わかっていたけど、一応確認を取りたいみたいなことってよくあるでしょ?

 要するに責任を取る代わりにぎゅっと抱きしめてほしいということなんだろう。

 けれど、今の俺にはハードルが高すぎる。なにせ、お互い水着姿だ。俺も上にはTシャツすら着ていない上に奈々もビキニ。ほぼ全裸と変わらない。

 素肌通しがくっつき、奈々の小さな二つの果実も直で味わうことを考えると……耐えられないかもしれない!

 どっちに転んでも最悪だ。いや、こんな美少女相手に抱きしめるか、それとも将来の伴侶とするかなんて天国すぎるような選択肢かもしれないが……まだ早い! 俺はまだ高校生になったばかりの十六歳だ!

 俺は今どんな顔をしているのだろうか……。

 そう思いながらも、必死に悩んだ末に俺は抱きしめることを選ぶ。


「わかった……。じゃあ、抱きしめればいいんだよな?」

「はい」


 奈々が再び両腕を広げる。

 先ほどからどきどきと心臓の鼓動が早くなり、息苦しい。多少息も上がっているようだ。

 俺は小さく深呼吸をしながらも奈々をそっと優しく抱きしめた。

 ――柔らかい……。

 感想としてはたったこれだけだ。奈々の体はやはり柔らかい。至る所が触れば崩れてしまうんじゃないかというくらいに柔らかいし、もろく感じてしまう。

 胸の辺りにはちょうど奈々のおっぱいがあるのだが……はは。これはヤバいですね☆ 理性を瞬時に吹っ飛ばすくらいに感触がビンビンに伝わってくるし、ちょっと感じてしまう。


「お兄ちゃんの体……カチカチですね」

「そ、そそそそそうか」


 急に変なことを言い出したせいで語彙力も低下し始めている。

 そろそろ離れた方がいいと野生的な勘でそう感じた俺は、奈々を引き離そうとする。


「お兄ちゃん……あと少しだけ」


 奈々がさらに力を加え、自分の体を押し付けてきた。

 互いの吐息が耳元にかかり、なんかエロい……。この状況こそエロそのものであり、下手をすれば行くところまで行ってしまいかねないのだが……ダメだ。奈々とは血が繋がっていないとはいえ、勢いでヤってはいけない。やっぱりそういう行為は最低でも好きな人同士でやらなければ……特に初めての時は!


「も、もういいか?」

「……うん」


 奈々は名残惜しそうな表情をしながらもやっと離れることができた。

 水着ということもあり、俺の海パンの下はどえらいことになってしまっているが、ひとまず奈々とは仲直りできそうだ。


「じゃあ、そろそろ行くか。下で明日香が待ってるし」

「そう、だね……」


 奈々はどこか浮かないような顔をしながらもコクンと頷き、俺たち二人はともに部屋を出た。


「ちょっと遅かったけど……一体何してたんだい?」


 一階に降りると明日香が待ちくたびれたみたいな顔をしてそう問いかけてきた。

 俺と奈々は一回顔を見合わせる。


「な、何でもないよ。ただ謝ってただけだ」

「そ、そうですよ。お兄ちゃんの謝罪を受けてただけです」


 そう言うと、明日香はじと目になりながらも「ふぅ〜ん……」と見つめてくる。


「まぁそれだけならいいんだけどね」


 俺は再び荷物を持つと次こそ別荘を出ることができた。

 その際、なぜか隣を歩いていた明日香に腹の肉をビーチにたどり着くまでつねられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る