第14話 おっぱいが小さくてはいけませんか?①

 勉強会がひと段落した昼頃。

 俺たちは三人で協力して作ったカレーをダイニングテーブルで食べていた。

 自分で作るのとはまた違う味に新鮮さを感じながらも、いろいろと談笑を交わしている。

 そんな中でふと奈々が手を大きく挙げた。


「ちょっといいですか?」

「ん? どうしたんだ?」


 俺と明日香は奈々の方に注目する。

 奈々はうんと咳払いをすると、俺の方に視線を向けた。


「お兄ちゃん。今年海に行きませんか?」

「海?」

「はい、私お兄ちゃんと久しぶりに海へ行きたいんですっ! 水着を着て、二人で浜辺を走り回ったり――」

「なら、ぼくも混ぜてもらっていいかい?」

「ちょっ! なんでいきなり入ってくるんですかっ! せっかくいい回想シーンだったのに! 入ってくるんだったらせめて私の回想シーンが終わってからにしてくださいっ!」

「ああ、それは悪かったね」


 と、明日香は口では言っているものの、表情はそう見えない。


「言っておきますけど、三宮さんは来ないでくださいっ! これは私とお兄ちゃんだけのイベントでもありますから!」

「どんなイベントだよ……」

「それは決まってるじゃないですか♡ 私とお兄ちゃんの関係をより深めるためのものですよ♡」


 奈々が赤らめた頬を両手で押さえながら、くねくねしだす。


「却下」

「ええーーーーーー?! 何でですか! 私はただお兄ちゃんと一緒にいたいと言っているだけなんですよ!?」

「一緒にいたいのなら別に海じゃなくてもいいだろ? 現に今も一緒にいるわけだし。それに海に行く費用とかはどうするんだ? 俺の親父は会社で忙しいからまず送迎は無理だし、母さんも難しいだろ? パートとかでさ」

「そ、それはまぁ、そうですけど……」

「第一、近くの海水浴場まで車を使っても三時間くらいはかかるんだぞ? わざわざ海で遊ぶためだけに行きたいと思うか? 正直俺は行きたくない。というか、行くんだったらホテルか旅館で一泊したいし」

「一泊?! わ、私と一夜を過ごしたいという意味ですか?! グヘヘ……♡」


 美少女らしからぬ口からよだれを垂らしている。

 ――一体何を想像してんだ?


「一応言っておくが、部屋は別々にしてもらうからな?」

「え?! 一緒じゃないんですか?」

「一緒になると奈々が襲ってくる」

「わ、私をそこら辺の狼みたいな風に言わないでくださいっ!」

「いや、実際そうだろ。前だっていきなり俺の布団に潜り込んでたよな?」

「あれは事故です。私にはまったく記憶にございません」

「前述と矛盾しているような……まぁともあれ一泊するにも費用がかかる。俺たちには一泊するための費用なんて持ち合わせてないだろ? だから海は諦めろ」

「あの少しいいかい?」


 奈々がしょぼんと落ち込み始めた時、それまで黙っていた明日香が口を開いた。


「ぼくの別荘でよければ、費用もかからずに海へ行けるけど……どうかな?」

「え? 三宮さんいいんですか?」

「うん、代わりにぼくも混ぜてくれたらの話だけどね」


 そう言われると、奈々は悔しそうな顔をして、歯噛みする。


「ぐぬぬ……でも、背には腹を変えられないって言いますし……わかりました。特別に三宮さんの参加も許可します」

「うん、ありがとう。それじゃあ、さっそく後で連絡してみるね。あまり使ってないからたぶん別荘の掃除はかかるかもしれないけど、使えそうになったらまた連絡するよ。その時に日程を決めようじゃないか」

「わかりました。では、昼ごはんを食べ終わった後、みなさんで新しい水着を買いに行くのはどうでしょうか? やっぱり海へ行くんだったら新作のビキニを着たいと思うじゃないですか?」

「そうだね。じゃあ、早く食べ終わらないとね」


 よくわからないが、俺抜きで話がどんどんと進んでいき、結果的には海へ行くことが決まったらしい。

 それにしても、新しい水着を買いに行くのか? それはそれで別にいいけど……その間、俺何しとこ? 家でゴロゴロしとくか。


「あ、お兄ちゃんも一緒に行きますからね?」

「は?」

「当たり前じゃないですか! とりあえず早く食べ終わって準備してください!」


 俺も行くの? 何しに? 水着なんて持ってるよ?

 とは思いつつも、食べ終えると、そそくさと外出の準備に取り掛かった。

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