第12話 終業式の後②
親父の気力が大体回復したところで俺は対面の席へと座った。
時間帯的にはもう昼をとっくに過ぎているが、今は腹が減ったというよりも先ほどの実母のことについていろいろと気になる点が多い。
本当の事実をいきなり知らされたのに対して、よくも取り乱すことなく落ち着いていられるなと正直自分でも驚いている。
部屋の中の空気がいつにも増して冷たい。
俺は固唾を飲みながら、親父の方を真っ直ぐと見つめる。
「さっき話してたことは全部本当なんだよな?」
信じたくないという気持ちが心のどこかにある。
が、親父は暗い顔をしたまま小さな声で肯定する。
「ああ……」
俺はそれを聞いた瞬間肩の力が一気に抜け、大きなため息を吐いた。
「なんで今まで本当のことを教えてくれなかったんだよ……」
「それは……聞かれることもなかったし、知らない方がいいんじゃないか、と……」
「だとしても、いつかは何かしらでバレることはわかってただろ……。ウソなんてそうそう隠し通せるもんじゃないんだからさ……」
「……」
親父は押し黙ってしまった。
シーンとした室内。アナログ時計の針の音だけがチクタクと鳴り、この空間を支配している。
「親父とかあ……奈々の母さんは不倫関係だったんだよな?」
「ああ……」
「奈々の本当の親父さんはどうしたんだよ? 親父と一時期結婚していたとなると、その不倫が原因で離婚したのか?」
不倫は本来いけないことだ。
自分たちの周りだけに迷惑をかけるにとどまらず、互いのパートナーを不幸にしてしまう。
好きだから仕方がないとかそんなのは通用しない。
「私と出会う前に蒸発したと聞いている……」
「蒸発? なんで?」
「さぁな。そこまでは聞いてないから私にもわからない」
「そうか……」
ひとまず聞きたいことはすべて聞けた。
――俺と奈々は実の兄妹でもなんでもない……。
親父の不倫や実母の存在よりも奈々との関係が真っ先に脳裏をよぎった。
俺は自分でもわからないうちにそのことについてショックを受けているのかもしれない。
奈々は妹じゃない。今となっては義理でもない。どこにでもいる少女だと……。
今までは妹という概念があったからこそ、たぶん独り占めに近いような感情を持っていたと思う。
だが、真実を知ってしまった以上、その感情はなくなってしまう。
俺は席から立ち上がると、自室の方へと籠る。
なぜこんなに辛い思いをしているのか……自分でもわからない。妹だった存在が普通の女子になっただけだ。考え方を変えてみれば、むしろいいことじゃないのか? 俺のことを好きなわけだし……。
そう思いたい。
けど、心の整理が着いていないのか、胸が苦しい。
この日の家事などはまったく手につかず、ずっと落ち着くまで自室に籠っていた。
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