第10話 期末考査①【以前読んでた方はここからが続きになります】

 翌日。

 今日も朝から大雨で時折雷の音が空気中を轟かせている。

 そんな中で俺は傘をさしているのだが……横には何故か明日香がいて相合傘状態になっていた。


「お、おい……。自分の傘あるだろ……」


 そう話しかけると、明日香はいたずらっ子みたいな笑みを見せる。


「あるわけないよ。今日家に忘れてきちゃったからね」

「いや、ウソだろ。さっき俺ん家を訪ねてきた時見たぞ? 片手に折り畳み傘を持っているの」

「それははるくんの見間違いじゃないのかな? きっと雷の音が怖過ぎて幻覚を見せたんだよ」

「どんな幻覚だよ。てか、別に雷の音なんか怖くねーぞ?」

「うそだぁー? 実際はこわ――ひゃっ!」


 ドガーン!

 ぴかっと一瞬光ったと思った瞬間、数秒足らずで大きな音が空気を震撼させた。

 ――今のは結構近くに落ちたんじゃないか?

 そう思っていると、俺の右肩に何やら柔らかい感触が……。

 横を振り向いて見ると、ぶるぶると小刻みに震え、俺の腕にしがみついている明日香の姿があった。


「そ、そんなに怖いのか?」


 俺の声に我を思い出したのか、すぐに離れ、コホンとわざとらしく咳払いをする。


「べ、別に怖くないよ? ただはるくんが怖いのかなって思ってね」

「いや、俺は全然怖くないんだけど……」


 それよりも登校中である周りの男子の視線が怖いんですけど……。

 つい先程の場面を見てしまったのか、視線の鋭さがさらに増し、それでも殺せるんじゃないかというくらいだ。

 俺にとってはこの状況が地獄であって、雷の音なんてまだまだ可愛い方。


「女の子の前だからといって、強がることはないんだよ? ぼくの前では存分と怯えるがいい」


 そう言っている明日香が一番怯えているし、なんなら両足ガクガクになっているのを俺は見逃さなかった。



 学校に到着し、クラスの方へと向かうと、俺はさっそく自分の席へと着いて、期末考査に向けた勉強を始めた。

 今日からテスト本番まであまり時間がない。普段から一時間程度の勉強は心がけていたけど、正直まだまだ足りないくらいだ。

 現在学年一位の人は毎日どれくらい勉強をしているのだろうか? 想像しただけでもげんなりしてしまいそうなくらい毎日コツコツと取り組んでいるに違いない。

 そう考えると、今から勉強したって学年一位には到底難しいだろう。地頭がいいというわけでもない俺は、せいぜい二十位くらいに食い込むのが精一杯というところか。

 でもこう言った休み時間など空いた時間を全て勉強に注ぎ込めば、もしかすると十位圏内も夢ではないかもしれない。

 俺はカバンの中から一番苦手である英語の教科書類を取り出す。

 まずは苦手を少しでも克服することが大切だ。テスト数日前であれば、苦手教科を捨て、得意教科を伸ばすことに集中すればいいのだが、今は時間がまぁまぁある。苦手教科を克服するには少し遅すぎるような気もしなくはないが、少しでも伸ばすことができれば、それだけで成績も確実に伸びると思う。


「お兄ちゃんおはようございます。何してるんですか?」


 勉強を始めようとした矢先、俺の元に奈々が近づいてきた。


「今から期末考査に向けた勉強をしようと思ってな。奈々もそろそろ勉強した方がいいんじゃないか? 前回の中間考査は散々な結果だったろ?」


 奈々の成績は現場最悪な事態。

 前回の中間考査では全教科点数が一桁台という記録を叩き出し、見事学年最下位になっている。これ以上成績が下がってしまえば、確実に留年ものだし、下手をすれば退学ということもあり得る。

 ここは兄として妹の学業を正さねばならない。

 だが、奈々はなぜか余裕そうな表情を見せる。


「大丈夫ですよお兄ちゃん。私の心配は入りませんよ」

「いや、絶対に心配してしまうだろ……。前回があーだったんだから」

「前回はあのような結果でしたが、今回は本当に大丈夫ですよ」


 なぜこんなにも余裕そうな顔をしていられるのだろうか……。よくわからないが、少し気になってしまう。


「毎日勉強とかしてんのか?」

「いいえ、あまりしてないですよ。たまにするくらいです」

「そ、そうか……」


 たまにするくらいでよくも余裕でいられるもんだな……。

 奈々は気を遣ってくれたのか、「もうそろそろ自分の席に戻りますね」と言って、俺の元から離れていった。

 俺も気を取り直して、英語の勉強を始める。

 ――やはり最初は英単語からだろうか? 

 文章を作るにせよ、単語がわかっていなければ、どうしようもない。

 というわけで、単語帳を取り出した俺は一語ずつ見ていき、覚えていないものについてはチェックをする作業に入っていった。

 こうして見ると、自分が英語嫌いということがはっきりとわかる。

 最初のページからテスト範囲の部分まで見ていく中で大半が覚えていない。

 これは結構マズいのではないか? 期末考査までの間に果たして覚えていない単語を覚えることができるだろうか? それプラス文法とかもあるし……うーん。場合によっては捨てるしかないかもしれない。

 今日から毎晩英語を中心的に勉強をしたとしても……ギリギリというところだ。

 他の教科も勉強しなければいけないことを考えると……毎日五時間程度は必要だな……。

 中間考査でヘマをした分を取り返さなくてはならないということを考えると、仕方がない。

 SHRが始まるまでの間、俺は黙々と単語帳と睨めっこをした。



 期末考査当日。

 俺は自宅の自室にて早朝から見直しに徹していた。

 テスト前の最終確認として各教科のテスト範囲をざっと見る。

 大まかに見た感じだとどれも完璧でわからないというところはない。

 一応基礎はできているということにほっと胸を撫で下ろすも、テストでは応用問題なども出てくる。基礎ができているからと言って、まだ油断は許されない。

 自室にある時計の針を見ると、まだ六時前。少なくとも一時間程度は勉強ができる。

 俺はもう一度各教科の問題集を開き、テスト範囲であるページを眺める。

 応用とはいえ、大体は問題集からの出題だ。ここをきちんと押さえていれば、高得点も夢ではない。

 期末考査は一学期最後の評価基準となっている。中間でダメだった分をここで取り返さないと今学期での成績は確定したも同然だ。夏休みまでの間にどれだけ頑張ったとしても成績の向上は正直見込めない。

 俺はカバンの中からノートを取り出す。


「よしっ。もう一踏ん張り頑張るか」


 気合を入れたところで俺はノートに向かってシャーペンを走らせた。

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