第9話 私がお兄ちゃんに教えてあげてはいけませんか?②
連日のように雨が降り出している。
道端には紫陽花が咲き、その葉の下には雨宿りをしているのかカタツムリがちょこんとのっている。
どんよりとした雨雲で空が覆われ、外は薄暗くなっている中、俺は特別棟一階にある多目的室にいた。
今日は委員会の会議があり、委員長である冬井さんも同席している。
一体なんの会議をしているかというと、夏休みについてだ。
まだ六月に入って間もないというのにもう夏休みに関しての話し合いをするのかと驚いた一面もあるが、冬井さんいわく、今から話し合いでルールなどを決めておかないと間に合わないらしい。ルールとは、いわば夏休みのしおり的なものだ。外出は保護者同伴であったとしても夜十時までとか友人宅などに泊まる際は必ず親に連絡をするだとかゲームセンターはダメとかいうやつである。
こんなものを作ったとしてもルールを守る人はほんの一部にしか過ぎない。
そもそもゲームセンターがダメというのが理解不能だ。なんでゲームセンターがダメなの? あそこは娯楽施設であって、別に悪いところでもなんでもないよね?
学校側としてはゲームセンター=不良が集まりやすいところと位置付けているのかわからないが、客観的に判断してはいけないと思う。ちなみにスーパーなどにあるゲームコーナーはオッケーらしい。
話し合いは前回と同様に黒板の前には会長と副会長が座り、会長を中心として長時間に渡るディスカッションが執り行われた。
様々な方向からこうしたらいいのではという意見が飛び交う一方で、それはダメだと言うような反対的な意見も飛び交う。
俺自身何を言っているのかさっぱりだ。
縦横無尽に飛び交う横文字。理解し難い。
一方で委員長である冬井さんは理解できているらしく、時折意見を言ったり、相槌を打ったりしていて、この日はやけに積極的である。
やがて二時間半にも及んだ話し合いは時間的な問題もあり、一旦終了となった。
「上石くん、何か発言したらどうですか?」
終了後、他の人たちが帰り、多目的室には俺と冬井さんだけになった。
いつもの片付けをしている中で冬井さんがそう話しかけてきた。
「発言したいのは山々だけど、何言ってんのか正直わからないんだよね……」
そう言って、俺は誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
すると冬井さんは小さくため息をつく。
――もしかして呆れられた?
そう思ったのだが、どうやら違うらしい。
「実は私もですよ。正直何言ってるのかわからない……その通りだと思います」
まさかの事実に言葉が出ない……。
「で、でも、時折意見とか言ってたよね?」
「発言はしてますけど、なんとなくですよ。きっと周りの人もあまり理解していないと思いますよ? 実際に的外れなことを言っている人に対しても真面目に討論してましたから」
「じゃあ、それだと話し合い的にはマズくないか?」
「マズいと思います。でも、なんだかんだで話し合いの末に定まった方向性にまとまっていくところがこの委員会の凄いところだと思います。前回だってそうでしたし」
「たしかに……」
なんだかんだ言って、結局ちゃんとまとまっている。
「だから上石くんは堂々としていれば大丈夫ですよ。みんなわかってませんし、私もそうです。上石くんだけじゃないですよ」
そう言われ、俺は少し安心した。
あの話し合いで場違いとばかり思っていて、ずっとこの会議が嫌だと思っていたから。
「そろそろ片付けも終わりましたし、私たちも帰りましょうか」
「そ、そうだな」
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